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プロローグ

 少年はなぜここにいるのか知らない。親は自分をここに置いて行った。『すぐ帰る』という母親の約束を信じていた。
 三日間何もせず、何も食べなかった。ただ、そこに母に買ってもらったクマのぬいぐるみを握りしめながら帰りを待っていた。そのぬいぐるみは少年が生まれたコロニーで作られたものだった。
 五日たった。意識はもうろうとし、幼いながらも『死』を感じていた。

少年は五日ぶりに歩いた。何か食べるものは無いかと周りを見渡した。だが、何もない。廃れて朽ち果てた建物が延々と並んでいる。
やがて、ここに来てはじめての人間を見た。
 服はぼろぼろで見るも無残だった。
 男は目の前のゴミ箱から汚い何かを取り出しむさぼり始めた。少年が今まで住んでいた町にはこんな人間は居なかった。
 少年はまた歩き始めた。やがて、足の関節が痛み出し、歩くことをやめた。そこに座り込み、眠りに着こうとした。
 「そんなところに居たら殺されるよ」
誰かの声がした。少年がふと起き上がるとそこに声の主が居た。少年と同じ歳に見える。
「この道はここらでも特にガラの悪い奴らがうろつくんだ。僕についてきなよ」
そういうと男の子は少年の手を引っ張った。
 少年は連れられるがままに歩いた。
 やがて薄汚い廃墟につれられていった。
 「ここが僕の家さ。さぁ、入りなよ」
中に入ると、自分と同じような子供たちが数人焚き火にあたっていた。
「パウ、それ誰だい?」
焚きにあたっていた少年の一人が言った。
「彼も僕らと同じさ、彼も今日から一緒に暮らす」
パウが言った。それに焚きにあたっていた少年が反発した。
「これ以上人数を増やすつもりかよ!食料を手に入れるのがどれだけ大変だか知ってるだろう?」
「分かってるさ!だけどほっとけないだろう?彼は僕らと同じなんだから」
パウがそういうと少年も黙りこくった。
 「さぁ、僕らも火に当たろう、今日は冷える・・」
そういうとパウは火の回りに自分を座らせた。
 「そういや、君、名前は?」
「・・・グランス・・ダン・グランス・マルト」
「グランスか!僕はパウ。ここのリーダーだ」
 「僕はマルコ」
さっきの少年がばつが悪そうに言った。
 「僕はビドー、隣のはロックだ」
ビドーは前歯が折れているにもかかわらず目いっぱいの笑顔をみせた。ロックも満面の笑みを見せた。
 「ここは・・どこなの?」
グランスはパウに聞いた。
「ここは通称ダスト。地球でもそうは無いほど治安の悪い町さ、そこら中にマフィアや犯罪者がうろついてるからね」
「みんなは何でココに来たの・・?」
その質問にパウの顔がしかめた。
「君と同じさ、捨てられたんだみんな」
パウのその言葉をグランスは信じられなかった。自分が捨てられたなんて思いもしなかったのだ。
「明日は早いよ。君も僕らの仲間になったからには働いてもらうからね、さぁ、もう寝よう」
そういうとみんなそこに寝転んでしまった。

 翌朝から盗みの生活が始まった。それはこの町で生きる唯一のすべだった。この町では子供はもっとも最下層の存在でしかなかった。
 グランスも日に日に盗みの技術を会得していった。

 盗みの生活も十年ちかく経った。グランスは相変わらず盗みや強盗を繰り返していた。

だが、すべてが昔と同じじゃなかった。ビドーは盗みに失敗してそれ以来帰ってない。ロックは肩がぶつかったとゆう理由で銃殺された。マルコはマフィアから盗みを働きリンチを喰らった。次の日にマルコは目の前で息をひきとった。
 仲間が三人死んだ。だが、ここではそれが普通だ。軍から見放され腐ったこの町では。
 かつての仲間もパウだけになったが新しい仲間も増えた。みな自分と同じ境遇だった。
 その子供たちのためにグランスは何でもやった。人も平気で殺した。
 やがてグランスとパウはマフィアの一員になった。人を殺して金を貰った。モビルスーツの密輸もやった。それで生活できればなんでもよかった。
 やがてグランスはちかくの町までモビルスーツを運ぶように命令された。
「オレがいない間子供たちを頼むぞ、パウ」
「あぁ、まかせときな!」
パウは満面の笑みを見せくれた。
 グランスがモビルスーツを乗せたトラックに乗り込もうとした時だった。幼い子供の呼ぶ声が聞こえた。
「グランス、コレあげる!」
走ってきた女の子はグランスが面倒を見ている子供の一人だった。その子はグランスに金色の美しいペンダントを渡した。
「シュリー、こんなものどこで盗んできたんだ?」
グランスは驚いたそぶりを見せた。
「盗んだんじゃないよ、みんなで金をだしてさ、買ったんだ!」
パウが一つウインクをした。
「そうか、ありがとうな・・そうだ、代わりにコレをあげる」
グランスはポケットから手のひらサイズの汚いクマのぬいぐるみをシュリーに渡した。
「グランスそりゃお前の宝物じゃないか!いいのか?」
パウが驚いた。
「いいさ、これはシュリーに持っててもらいたいんだ、ちょっと汚いけどな」
そういうとグランスはトラックに乗り込んだ。
「ありがとー!グランス!」
シュリーが手を振って見送ってくれた。
 グランスは町をでて荒地をトラックで走り続けていた。
 ふと空を見ると連邦軍の戦闘機の群れが見えた。その時はグランスは何も気に留めなかった。
 目的地に着くと男が一人現れた。
「お前か?ダラノファミリーの奴は?」
「そうだ。モビルスーツを持ってきた」
そういうとグランスはトラックのボタンを一つ押した。
 トラックの荷台がぱっかり開いた。男は荷台に乗り込みモビルスーツをまじまじ眺めた。
 「これじゃない!まちがってるぞ小僧!」
男の怒鳴り声が夜の荒野に響いた。
「そんなはずは・・・」
グランスは困った。
「私が頼んだのはシャベリンだ!これは違う機体だ!」
「す、すいません・・・」
 グランスはあせった。今までにこんな失敗はしたことが無かった。
「夜明けまでにここにもってこい!わかったな!間に合わなければ死ぬと思え!」
グランスは猛スピードで町に戻った。来るときよりも断然はやかった。
 やがて町の方向が明るくなっていることに気づいた。
「まだ日の出には早いのに・・・」
 町に大分近づいてグランスは気づいた。これは日の出じゃない、町が燃えている。        

グランスは混乱した。手に大量の汗がにじんでいた。心臓は今にもはちきれそうだ。
 そしてグランスはなぜ町が燃えているのか分かった。連邦軍だ。軍が空から町を爆撃していた。
 その光景をグランスは信じられなかった。確かにあの町は犯罪者の巣窟だ。だが、爆撃をするなんて。
 グランスは町の外にトラックをとめて、燃える町に突入した。
 いつもの見慣れた町並みは地獄と化していた。どこの建物も燃えていた。燃えた死体を飛び越え、グランスは我が家へと帰った。だが家も他の家と変わらない、燃えている。
 グランスはかまわず中に入った。中も案の定燃えている。そして、グランスは見てしまった。いつも皆が焚きにあたっているところに二つの焼け焦げた死体があった。一つは幼い子供、そしてもう一つは自分と同じくらいの背丈、パウだ。
 グランスは目の前の光景が信じられなかった。この焦げた物体がパウなんかじゃないと思いたかった。しかしグランスはひとつ大きなことに気づいた。シュリーがいない。グランスは燃える家を探した。
 そして見つけた。シュリーはそこにうずくまっていた。体じゅうに火傷をしているのが痛々しかった。
「大丈夫か!?シュリー!」
グランスはシュリーに駆け寄った。
 シュリーはグランスの方を向いた。
「グ・・ランス・・おかえ・・り・・」
シュリーはもう駄目だとグランスは気づいていた。だからこそこの言葉を聞いてグランスは悲しくなった。
「グランス・・・にもら・・ったぬいぐるみ・・燃え・・ちゃった・・ごめんね・・」
シュリーが片手に持っているクロ焦げたぬいぐるみを持ち上げた。
「いいんだ・・・いいんだ」
グランスはそれしか言えなかった。
「熱いよぉ・・・・熱いよぉ・・・グランス・・熱い・・」
シュリーはそういったままもう何も喋ることは無かった。
 グランスは呆然とそこに座り込んでいた。家が崩れるのがわかった。だが、逃げる気はしなかった。死にたかった。
 遠くでまた爆撃の音がした。連邦軍が爆撃している、そう思ったとき、グランスの心に黒い何かが芽生えた。今までにない激しい憎悪だった。
 グランスはシュリーに別れを告げて家をでた。
 グランスはトラックのところまで戻った。そしてモビルスーツに乗り込んだ。
どうやって操縦したかは覚えてなかった。ただ、連邦が憎かった。この手で奴らを殺したかった。
 グランスの乗ったモビルスーツは空に飛び出た。
 「なんだ?アレは?」
連邦軍の一人が接近するモビルスーツに気づいた。だがそれだけだった。気づいたときにはもうその戦闘機は爆散していた。そのことで他の戦闘機もグランスの存在に気づいた。
 「なんだ!?あのモビルスーツは!やれ!」
無数の戦闘機がグランスに向かってきた。だが、誰一人としてグランスを捕らえることはできなかった。
 「なぜだ!?なぜ当たらない!?うあぁぁぁぁぁ!」
最後の一機が爆音とともに消え去った。
 モビルスーツはゆっくりと荒野に降り立った。町はまだ燃えている。
 グランスはシュリーに貰ったペンダントを握りしめた。
「オレは絶対に軍を許さない、オレがすべてを終わらせてやる・・そしてこんな世界を変える・・・!」
 グランスは燃える町を見て誓った。そして、町を背にグランスは旅立った。
 それから十年、宇宙世紀0172。新しいコロニーの完成、連邦軍監視組織の結成。世界は新たな時代へと歩みだす。

 

 

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