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> BOOK_M.GIF - 768BYTES機動戦士ガンダム 〜NO WHERE MAN〜
外伝 ペギー戦争
第四章 ペギー教の男

「この世で最も神に近い存在、生物は何かわかるかね?それは植物だよ。植物は欲しない。とりわけ花は美しい。人は花のように生きるものです」
中年の男性は言った。
「神官様、どうすれば私は救われるのでしょうか?」
「人には花以上にすばらしいものがあるのです。それは『愛』です。人は誰に教えられることもなく、『愛』を持っています。人を愛するのです。そうすればペギー様が必ず導いてくれますよ。しかし、この世には『愛』捨て、人からはずれる獣達がたくさんいます。それらの獣達は必ずペギー様から神の意思が下されるのです。ペギー様は『愛』を持った花なのですから」
中年の男性は神官に向かい手を組んで礼を言って去っていった。
「ペギー様の導きがあらんことを」
 ここは地球のどこかの教会。神官は毎日この教会でペギーの教えを説き、悩みを受け入れていた。
 神官が教会の掃除をしているとまた1人訪問者が。
「神官さん、今日も元気かい?」
「おや、何の用ですか?」
男はゆっくりと教会内を見て歩いた。
「連邦軍が潰れるのも時間の問題だ」
そう言って、ポケットから取り出した煙草に火をつけようとした。
「ここは教会です。煙草はいけません」
「おっと、そうか・・・。ああ、そうだ、面白い知らせだ。連邦にはもう腑抜けしか残っていないと思っていたがな、楽しめそうな奴が現れたよ。ロサンゼルスより南に数百キロの地点で連邦軍基地制圧に向かった俺達の小隊をたった一機でかたずけた奴がいるそうだが」
神官は笑みを浮かべた。
「知っていますよ。全てはペギー様の御心のままに」
 そうして神官は正面の紋章に向かってひれ伏した。男はゆっくりと、教会に並べられている木の長椅子に腰掛けた。
「俺は神なんて信じないし、どうだっていい。ただこの不完全燃焼の、温度の低い炎の中から抜け出したいだけ。俺は、その男に会いに行くぜ、死に場所を見つけたいんだ」
神官は立ち上がり言った。
「来るときが来れば、いつか導かれるでしょうね」
「邪魔したな」
男は腰を上げ教会を後にした。
 この男の名はラウド・ロウ。全大戦ではパイロットとして戦ったが自軍が敗北し、この十五年間さまよい続けていた。しかし戦争の呪縛から逃れられず戦場を求めている最中、このペギー教に入信した。しかし宗教的なものは少しもない。ラウドはただ戦いを求めているだけ、なのである。
 ラウドは車に乗り込み、キーを回した。
 車は荒野を駆け、街を後にして着いた先は『地下基地』だった。ペギー教過激派の活動拠点である。ラウドは格納庫を壁伝いに歩いた。手を壁に当てるとひどく冷たかった。
 慌しく整備員やメカニックが動いていたのはその楽しめそうな奴のおかげだと思った。
「ラウド様、どうしました」
その声の方に振り返ると、一人のメカニック。
「ずいぶん忙しそうじゃねぇか・・・・・。出るぜ。俺のイキシアを用意しろ」
「イキシアとは・・・・。出撃命令はありませんが?」
「いいから持ってこい。アイツが待ってるのさ」
イキシアとはラウド・ロウ専用モビルスーツのことだ。ラウドは久しぶりに乗る愛機の感覚を確かめた。ペギー教が支給してくれたこの機体。目標は噂の奴しかいなかった。負ける気は全くしない。緊張はなく落ち着いていた。ラウドは敵との戦闘時は冷静を保つようにしている。そうしていれば死ぬ確立も低くなる。あの男の前に立つまでは。
 荒野が割れた。といってもそこは地下の格納庫の天上部でもある。ラウドは右足に力を込めた。イキシアは砂ぼこりを巻き上げて上空へ。そのまま見えなくなった。
 ラウドは最後に戦ったのは前大戦、『ガンダム』とだった。それがどんな戦いだったか今となっては知る由もないが、ラウドはその時の劣等感に包まれていた。ラウドは今、己の中の『ガンダム』の亡霊を払う為に戦っている。その方法はわからないが噂の奴はその呪縛から少しでも解き放ってくれる。そんな気がした。
 例のポイントに近づくにしたがって、ラウドの鼓動は高鳴った。イキシアの装備は標準的なものでビームライフルとビームサーベル。後は捕獲ネットやら手榴弾、それとヒートナイフが腰に1本あった。
 やがて目の先に街、そして基地が映った。この時、まだ敵はいなかった。
「さて・・・逢えるか・・・・お前と・・・・」
街の奥から数機の戦闘機が現れた。それは猛スピードで迫った。
「違う・・・・お前らじゃないんだよ!」
イキシアはちょうど四発、ビームがそれぞれ戦闘機を貫いた。避ける事はできなかった。しかし奴ではない。確かに奴のプレッシャーは感じられた。初恋のような胸の高鳴り。十五年前がよみがえってくる。
 それまで空を行ったイキシアは地に下りた。ゆっくりと街に向かってモビルスーツが歩いた。太陽はいつも通りの光を発し、その光がイキシアのボディに反射した。一歩足を進めるごとに、心は高ぶった。ラウドは初めの内は抑えようとしたが無理なことに気づいた。
 次の瞬間、街からどす黒い感覚がラウドに走った。太陽の光はまたボディに反射した。しかし、そのボディはイキシアのものではない。
「・・・・・美しい・・・いや・・・」
遠くには真っ白のモビルスーツがまた歩いてこちらに近づいて来ていた。
「お前・・・なんだろ・・・ああ・・・そうか・・・」
ラウドの右足に渾身の力が込められた。最大出力。イキシアは一気に二機の距離をつめた。砂ぼこりを巻き上げながら突進するイキシア。真っ白い奴は足を止めた。
「お前には、俺には、これだよなぁぁ!」
間合いをつめて瞬時に左肩のビームサーベルを抜き奴の首。奴はそこから一ミリも動かなかった。しかしイキシアのビームサーベルは空を切った。
「!?」
イキシアの右腕は振り切られて完全な『死に体』となる。奴は黙ってそれを見た。次の瞬間、振り切られた右腕が元の軌道を走る。奴はまた動かない。やはり。
「なぜ、当たらない!?」
 イキシアは奇妙な感覚にとらわれ一時、距離をおいた。
「ハァ・・・ハァ・・・」
ラウドは生ぬるい息を吐いた。こんなことは初めてだった。
「いや、違う・・・・。二度目か・・・・」

 人の視界は狭い。だが、狭いまま人生を終えても構わないのだ。自分が生きていく範囲。それさえ守れれば。

ここはどこかはわからない。薄暗い部屋の中、木製のテーブルと、それを挟んだ二脚の椅子。それは懐かしくアンティーク調だった。奥に男が一人、足を組んで座っている。
「どうしました・・・・?何か気分でも・・・・?」
そう話しかけたのは老人。とても小柄な男。
「いや・・・・」
男の右手は顔を覆っていた。それはゆっくりと鼻をなでおろす。その先の花瓶にさされた花にも触れてみた。
「最近、髪の色がお変わりになられましたな・・・・。白から赤へ。それが関係しているのですか?」
「さぁ・・・・私にもわからないよ。ラウド・ロウとかいったか・・・・」
「ああ、ああ・・・先月ほどあなたを訪ねてここに来た男ですね・・・」
「フフフ・・・あいつも気づいているはずだ。この感覚に。面白い男だ。いいかい・・・・私は壊したいんじゃない・・・。さ、モーペ、もう行くんだ。私を一人にしてくれ・・・・・」
そう言われた老人は男に一礼して、部屋を出て行った。
「私が誰なのか・・・・・教えてくれ・・・・なぁ・・・兄弟・・・」
 
 ココの部屋を後にしたタブルは足を引きずっていた。幸い銃弾は貫通したもものさすがに痛い。できることならこの場に大の字になって泣き叫びたいところだった。しかしタブルはそんなことしたって、またこの男は引きずっていくのだろうが。
「何で、僕も行かなきゃならないんだ!?一人で行けよ!」
その言葉にシドは振り向かず言った。
「勘違いするな。別に俺はお前を何も必要としていない。ただ、好意から助けてやってるだけだ」
「助ける!?誰からだよ」
シドは構わず足を進めた。
「ココの奴に決まってるだろ。お前もあいつの実体に少なからず近づいたんだ、じきに殺される。俺といたくないなら何処へでも失せろ。俺はお前がどうなろうと知らん。ただ、俺といる限り、俺はお前を利用するだけ利用する。それだけだ」
シドのその言葉にタブルは息を呑んだ。
「わ、わかったよ!行くよ!」
タブルは足を必死に引きずってついて行った。 
 痛みを感じなくする方法は考えないことだ。タブルは今自分はとても恐ろしい状況に置かれていると思った。しかし、それは確信ではなかった。それは、このシドという男のせいだろう。自分が殺されようとしている中でもこの男といると大丈夫な気もした。また、今の状況以上に危険な男にも感じられた。自分の利用価値とは何かとも考えたが結局まとまらなかった。
 足の痛みは依然として治まらないが、シドの足は止まっていた。第十三格納庫の前で。やはり何も言わずしてシドは進む。何とかタブルもそれについた。
 錆付いたドアを開け錆付いた階段を上った。それらに触れる度、ギィギィときしんだ。情けないほど上りづらい。
 すると、先に上り終わったシドの声がした。
「おい、ア・ダッチ!クラッシュで出るぞ」
「シ、シド!どこ行ってたんだよ。いいぜ、いつでも出られる。思いっきり暴れてきな」
シドはコクピットに乗り込んだ。シドにはモビルスーツについての知識なんてまるでなかった。だから、計器だのメーターだのシードベルトなんかはまるで気にしなかった。
 クラッシュに灯がともった。不思議なものだ。シドはそう思った。人間が乗り込んだ機械の指先まで自由に動かせるというのは。
 深呼吸をしてみると奇妙な感覚だった。これから出会おうとしている敵は前にも何処かで会った気がする。隣には静かにラモーンズが立っている。目を閉じるとこの真っ白いモビルスーツが自分に合っていると思う。それは単に髪の色なんてことではなく、合っていると思った。
「出るぞ」
クラッシュは開けた天上部から出て行った。
 「はぁ・・・はぁ・・・・出て行ったか・・・。僕はどうすれば・・・・」
ここでタブルの体力は尽きてその場に座り込んだ。激しい動悸が彼を襲った。士官学校で習った通りに足の止血をした上着の切れ端には血が滲んでいる。すると、向こうから男がやって来た。
「アンタ、シドの知り合いか何か?」
「まぁ・・・そんなようなもんかな・・・」
喋るのもやっとだった。
「ん、足を怪我してるじゃねぇか」
「ハハ・・・撃たれちゃった・・・・・」
出血のせいだろう。そこでタブルの意識はなくなった。
 第十三格納庫を出たクラッシュは街の外に出ると、荒野に下り立った。ゆっくり歩いた。そして四分後、二機は出会った。
 真っ直ぐ向かい合う二機。シドは己から攻撃しない。ついに敵は俊敏に、左肩のビームサーベルを抜いた。それを確認してもシドは動くつもりはなかった。その攻撃が当たらないことはわかっていたからだ。そしてその攻撃は案の定た当たらなかった。完全にこの時、敵は死んでいたのだがやはりシドは攻撃しなかった。
 また敵の攻撃が同じ軌道で戻ってくる。これも当たらなかった。
「お前は弱いよ」
クラッシュは一旦敵から退いた。距離をとり再び向かい合った。

 イキシアの中でラウドは自分の左手が震えていることに気づいた。右手で抑えたが、どうしようもなく震えは止まらなかった。
“恐怖・・・・しているのか・・・俺は・・・・。こいつはあいつにそっくりだ。この感覚は・・・・”
 震える足に再度力を込め、イキシアのバーニアが火を吹いた。一旦開いた間合いがまたつまる。右手に握られているビームサーベルをクラッシュに──
 次の瞬間、断たれていたのはイキシアの右腕。ラウドには瞬間が何秒にも感じられた。
“ゆっくりだ・・・・俺より速い・・・・ずっと・・・”
そのままビームの剣はイキシアの右脇へ、そのボディを溶かしていく。そこからは速かった。そして左腕も落ちた。
 つまりは、クラッシュの横一文字の斬撃にイキシアは真っ二つにされた、ということだ。
 幸いなことに、イキシアのコクピットは機体の頭部にあった。ラウドはかろうじて機体が大破する前に脱出することに成功した。
 もちろん、シドがコクピットの位置を間違えたわけではない。
 ラウドはクラッシュをもうずっと遠くから見ていた。
「強いなぁ・・・・それにやさしいんだな・・・。また挑戦させてもらうよ・・」
 そしてラウドはもう沈みかけていた太陽に背を向け、消えて行った。 
 「あいつは何も教えてくれなかった・・・・。俺は・・・・誰なんだ・・・・」
シドはこの機体から自分のヒントを得られるかとも思っていたが、何もなかった。自分の情報は何もなかったが、地球連邦軍としてみれば立派な手柄には違いない。シドは、クラッシュはまた格納庫へ戻った。
 「うぅ・・・」
目覚めると、やはり足が痛んだ。ベッドの上に寝ていることにタブルは気づいた。足に巻かれている包帯は新しくなっていた。
「ここは?」
すると男が入ってきた。この男は自分の最後の記憶の中にいる。
「おう、気づいたか・・・・。よく眠れたかい?・・まぁ・・・普段俺が使ってるベッドだからな・・・寝心地はよくねぇや」
「ありがとう・・・。あなたがここに運んでくれたのか・・・。そういえば・・・・敵は?」
「シドがとっくに片付けたよ」
「あいつは・・・?」
「さぁな・・・それから出て行ったきりだ」
「そうか・・・・」
一度起こした体をまた横たわらせた。
“強いな・・・・あいつは・・・”
タブルは出血のせいで重い上半身を起こして、薄い布から出た。頭痛もした。目の前のデスクではア・ダッチが忙しくコンピューターのキーを打ちつけている。椅子がクルリと回ってア・ダッチがタブルに言った。
「そうそう、シドがお前さんにクラッシュの整備をしとけと言ってたぞ」
タブルの体に今までに増して疲れが流れ込んだ。
「何てヤツだ。・・・・あいつは何処へ?」
また椅子がクルリと回り、ア・ダッチはタブルに背を向けた。
「ああ、街に行くと言ってたが・・・・よくはわからん。あいつのことがわかるやつなんていない、そうだろ?そうさ・・・あいつだって・・・」
カタカタとキーを打つ音が部屋に響いた。
 タブルは立ち上がり少し柔軟体操をしてみたが、予想通り、体はうまく動かないし痛みもあった。ドアには小窓がついていてそこから一対のモビルスーツが見える。
「あのモビルスーツは?」
「アンタ、連邦の人なんだろ?それが知らないなんてとことん俺はひどい扱いのようだな・・・・」
「いや・・・・すまない、何しろこっちも色々大変で。あのモビルスーツはあなたが?」
「ああ、そうだ右が『クラッシュ』、左が『ラモーンズ』だ。モビルスーツなのにクラッシュなんてひどい名だな・・・。俺が設計し、造った。・・・・・と言っても師匠の見よう見まねだがな。なかなか気に入ってる、シドのような男に使われてな」
 その二体のモビルスーツの造型は似て非なるものだった。二本足に二本腕、頭があって、目が二つ。まるでガンダムを思わせるようなシルエットだったが、それとも違った。
「二体の整備、教えてくれませんか?」
「いいって、シドが言ったからってその体じゃ大変だろう。俺がやっとくよ」
「確かにシドに言われましたが、これは個人的な好奇心です、是非」
そう言われたア・ダッチは了解し、二人は作業に取り掛かった。


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