> BOOK_M.GIF - 768BYTES機動戦士ガンダム 〜NO WHERE MAN〜
外伝 ペギー戦争
第三章 ポンコ・ココ

 「アイツは何だったんだ!?」
この街に配置される連邦軍基地、通称『トム』の最高責任者であるポンコ・ココ准将は部下たちに怒鳴り散らしていた。自軍の戦闘機は全滅、そして敵も全滅したもののそれをやったのは識別反応の不明な機体。これが気に入るわけがない。
「すぐに調べろ!アイツが何者なのかなぁあ!」
 顔にかかった唾を拭きながら、タブル中尉は部屋を後にした。
 タブル・ドルリアは階級こそ中尉だが、その能力を高く評価されていた。それこそ戦場には一度も行ったことがないが、その巧みな話術とデスクワーク能力で『トム』の費用を三○%も減少させたのだ。もちろんそれまでと同じ内容の仕事でだ。ゆえにタブルには『トム』でも十数名の佐官にしか与えられていない個室を持っている。
  ココの部屋を出て自室へと向かう途中少し考えてみた。それはペギー教についてだ。
 ペギー教。それは前戦争の直後に戦後の騒乱に乗じて地球で起こった新興宗教ある。ペギー教の信者は地球を中心に宇宙にも増えている。唯一神のペギーを狂信しているのだ。この新興宗教の狂信者が増えた一因として前大戦後の連邦軍の対応があった。傷ついた民衆に対する連邦の態度は十分、破滅思想の宗教につながった。その思想とは自然回帰、つまり必要最低限の人間だけが生き残り他の人間全てを死滅させ世界を作り直すという考えだ。もちろんその必要最低限の人間とはペギーに守られた者、ペギー教の信者だ。荒んだ乱世にこそこのような宗教が起こる。古くはジオン公国の選民思想に近い。
 なぜタブルがこんなことを考えたかというと、さっきの五機の敵こそがペギー教信者だからだ。ペギー教信者達は世界各地、宇宙各地でペギーの意思といってテロ活動を繰り返している。その規模はかなり大きなもので一部のマスコミは『ペギー戦争』といってはやし立てた。
 一人、自室のドアを開け部屋に入ったタブルは早速ポンコに指示された通りあの機体の詳細をデスクのコンピュータで調べ始めた。

 第十三格納庫から見える青空からクラッシュが降りてて来た。クラッシュは元の位置に戻りハッチが開くとシドが降りた。するとシドにあの酔っ払いが駆け寄って来た。
「アンタ、シドとかいったな。凄いじゃねぇか!ええ!?やっぱりパイロットなのか!?」
男はすっかり酔いはさめているようだった。
「あ、そうだ。俺の自己紹介がまだだったな・・・俺の名前はア・ダッチ。なぁシド・・・・」
ダッチは一人で騒いでいたが、シドは全く聞く耳を持たない。
 それより気になるのはクラッシュ、の隣のこの機体だ。初めて見たときはクラッシュと同じに見えたが、今一度見てみると似てはいるものの違う機体だとわかる。
「ダッチ、この機体は何なんだ?」
待ってましたと言わんばかりの顔でダッチが答えた。
「その機体の名はラモーンズといってな、クラッシュの兄弟機にあたる。だが、まだ不完全な所が多くてな、なにせ・・・・」
ダッチが喋っている途中でもうシドは背を向けていた。シドの着ている真っ白いTシャツが太陽の光を反射させて一瞬ダッチが目を閉じて開けた次の瞬間もうすでにシドはいなかった。
 第十三格納庫は基地の敷地内の最も北に位置する。シドは最初に降ろされた正面の入り口に向かって歩いて行くことにした。第十三格納庫から出てすぐの所にはまだあの兵士が倒れていた。それを二、三人の兵士が囲んでいる。
「おい、やっぱり死んでるのか・・・?なぁ・・・」
兵士が倒れている兵士の首に手をやって首を横に振った。
「や、やっぱり!」
「一体誰に・・・・ん?なんだお前は」
三人の兵士の内の一人とシドは目が合ってしまった。シドがそのまま無視して行こうとするとその兵士が肩をつかんできた。
「ちょっと待て、身分証かIDカードを見せろ」
「おい、そんなやつに構ってる場合じゃねーぞ、こいつをどうするかだ」
「しかし・・・」
シドは強い力で兵士の腕を払った。そして言った。
「そいつを殺したのは俺だ。どうでもいいが俺をこの基地の責任者の所まで案内しろ」
そのシドの言葉に三人は言葉を失った。この男が何を言ってるのかわからないのである。
「・・・殺したって、お前が?もういいからあっち行ってろ」
ドン、と兵士はシドを押しのけた。その兵士の手をシドは瞬時に掴まえた。そしてまず人差し指をへし折った。
「!、っっっっぐぁぁ!」
「いいから案内しろと言ってるだろ。次」
「んぐぅああぁあぁ!」
続いて兵士の中指が折られた。
「わかった!する!するから!」
その言葉でシドは手を放した。その恐るべきこの男の行為に他の二人は息をするのを忘れ、指を二本いかれた男はその場でうずくまり悶絶している。手を放したが今度は兵士の髪の毛をわしづかみにして引き起こした。
「それじゃあ、案内してもらおうか」
そう言ってその兵士を自分の前に押しやった。他の二人はシドを見て本当にこの男が殺したのかも知れないと恐怖した。その後、二人は小さくなっていくシドを見ていたがシドの姿が見えなくなるとやっと我に返り大慌てで死体を運んで行った。
 「こ、ここが正面だよ。そこの正門をくぐれば受付に着く。もう行っていいだろ・・・・?」
「行け」
兵士はどこかへ消えて行った。シドは厳かな門をくぐり進んだ。
 受付のデスクがある。その向こうにはコンピューターが並ぶ。そして二人の女性が並んでいた。受付嬢だ。ルーシーは『トム』の受付嬢になって二ヶ月になりやっと仕事も身についてきている今日。最も奇妙な男が訪ねて来た。正門の方向からやって来た男の姿はボロボロのジーンズに汚れたTシャツを着た白髪の男だった。
「おい」
突然、男は言った。
「はい、何の御用でしょうか?」
「この基地の最高責任者に会いたい」
「・・・は?」
ルーシーはこの男が何を言ってるのかわからなかった。その容姿から決して連邦軍人には見えなかった。ただこのみすぼらしい男から何か底知れぬ迫力を難じたのは確かだ。
「会いたいんだ」
「は・・はぁ・・・少々お待ちください・・・」
ルーシーは自分のできる全ての手段を使って調べてみたが、ココ准将と予定のある者など一人もいなかった。
「あの・・・IDカードを・・・」
「いや、もういい。邪魔したな」
男は背を向けて、奥へ歩いて行った。
「あの、ちょ、ちょっと・・・・」
呼びかけもむなしく男は歩いて行った。
“何だったのかしら・・・”
「あ・・・いや・・そうそう・・・」
 何人の兵士が振り向いただろう。シドの姿はそれ程この基地で浮いていた。途中、シドは何人かの兵士にココ准将の部屋までの道のりを聞きながらココ准将に近づいて行った。
 一方、タブル中尉の自室ではやっと先のモビルスーツの正体が掴みかけてきていた。それは案外簡単なことだった。この『トム』ひいてはこの街の上空では常に監視衛星が飛び、街の中で犯罪が起きたときは監視衛星から直接基地に連絡がいくシステムになっている。タブルは先の戦闘からあのモビルスーツの軌跡の映像を全てチェックしてあのモビルスーツが第十三格納庫に戻ったことをつきとめた。
“第十三格納庫・・・・『トム』の中で一番はずれにある格納庫か・・・その使用目的は『外来モビルスーツ用』。・・・識別反応がなかったということは正式な連邦軍の機体ではないのか。第十三格納庫を調べる必要があるな・・・”
その時、タブルの目の前のホログラムにコールがかかった。
「何だ?」
タブルがでると、ホログラム映像には見たことのない白髪の男が映し出された。シドである。
「誰だお前は」
そうタブルが問うと
「お前が探してる男さ」
「お前が?」
「信じる信じないはお前の自由。それより俺はこの基地の最高責任者に会いたい。ポンコ・ココとかいったか。そいつの部屋のドアには特別なロックがかかっているんだ。だからお前に開けて欲しいんだが」
「俺はどうすればいい?」
「簡単なことだ。今から、中庭の広場に来いべンチで待ってる」
用件だけ言うと、男は回線を切った。いつもならタブルはいたずらだとして取り合わないが、今日は違った。あの男の顔を直接見てわかった。さっきまで見ていたあのモビルスーツから放たれていた気配と重なった。
“間違いない・・・アイツだ”
 基地の中庭は、学校のグラウンドぐらいの広さがある。ここには兵士たちが昼休みなどに利用するアスレチックや小公園、バスケットコートが二面ある。兵士たちの憩いの場となっているここにまた、ついさっき敵機が撃墜されたことを知って安心した兵士達が集まって来ていた。
 バスケットコートの隣の小公園、水しぶきが舞う噴水の前にシドはいた。遠目からタブルは見た。タブルは二十一歳になりまだ一度も戦場に出たことはなかったが『ああ、こういうことなんだな』とシドを見てわかった。それはシドの背後に何かどす黒いものが感じられたからだ。ここまで感じられるタブルは戦場に出てもいい働きをするかもしれない。
 タブルは震える足に力を入れてそのベンチに近づいた。そして白髪の男の前に立ち言った。
「僕がタブル・ドルリア中尉だ。お前だな、僕を呼んだのは・・・」
「そうだ。まぁいい、隣、座れよ」
ゴクリ。汗もかいてきた。
「な、何の用だ?」
「何って・・・・さっき言っただろ・・・」
白髪の男は目を合わせようとはしなかった。この男の隣に座っているとまるで首もとに鋭いナイフをつきつけられているような、そんな感覚に陥る。
「僕が言ってるのは、なぜ長官の部屋に入りたいのかということだ!」
つい大きな声が出た。目の前の恐怖に対し強がるように。
「それはお前には関係ないことだ」
「ドアのロックを解除するのは僕だ。知る権利はある!」
「声が大きいんだ。まぁ・・・そうだな俺のためかな・・・連邦に入るためだ」
正直に、タブルは驚いた。もっとこの男は悪、そんなことをする為に自分を脅して、長官室に押し入りこの基地を占拠するような。テロリストの類かと思っていたのである。しかし、まだまだ恐怖はつきない。では何故その様な事をして長官に、ココに会わなければならないのか。連邦軍に入りたいのなら普通に志願すればいいものを。そしてなぜこの基地でも少数の人間しか知らぬタブルのプライベートコールの番号を知っていたのか。一番の謎はこの男の正体。
「お前・・・何者なんだ・・・・?」
その質問に男は深く息をした。
「・・・わからない。俺にも」
「?、どういう・・・」
「名前はシド・ヴァイス。この名も俺が昨日つけた」
「何を言ってるのかよく・・・・・」
その時、タブルの襟を物凄い力が引いた。
「おい、いいか俺はお前とゆっくりしゃべってる暇なんかない。ガタガタ言ってないで俺をポンコの所へ連れて行け。連れて行く気がないんなら、ここでお前を殺して他の奴を使う」
『殺す』、その日常にありふれた言葉がこの時どんなに真実味を帯びただろうか。すこしの会話でシドが話せばわかる男だと思った、タブルが甘かった。だが、まだ疑問はあった。
「僕の部屋にコールした時に言っていた『お前が捜してる男』っていうのはどういう意味だ!?」
「ああ・・・まだわかってなかったのか・・・さっきの五機のカスどもを殺ったのは俺だよ。捜してるんじゃないかと思ってね」
その通りだった。そしてこの男を捜せと言ったのはココだった。この男をココの目の前に連れて行けばかなりの手柄であることはタブルはわかった。ココをこの男が殺す可能性もあったが自分も一緒に部屋に入り何かあれば拳銃で撃ち殺せばいいと思った。この男が嘘をついているとは思わないし、もし嘘でも撃ち殺せばいいことだ。
「・・・よし。わかった。お前をココ准将に会わせよう・・・ついて来い」
そう言ってタブルは立ち上がり基地へ向かって歩いた。フッと微笑を浮かべシドも後を追った。
 二人は歩きながら少し話した、というよりはタブルの質問責めだ。
「お前・・・ココ准将に会って・・・殺したりしないだろうな・・・?」
「さぁな・・・気に入らなかったら殺すかもな」
「連邦軍に入隊したいんだったら他にも方法があるだろう?」
「いいんだ、これで。こっちの方がやりやすい」
「なんで僕のプライベートコールの番号を知ってたんだ?」
「ああ・・・あの受付の女にお前の友達だって言ったら快く教えてくれたよ」
「ルーシーの奴・・・」
ここで会話は終わり、二人は奥へ、ココのいる長官室へと進んでいった。
 長官室では相変わらずココが一人そわそわしていた。タブルからの報告を待っているのである。ココは恐れていた。あのモビルスーツの戦いぶりを見てから恐れていた。
 近年、というより前大戦後、地球連邦軍は民衆から嫌われた。それは戦後処理の名目、潜んでいる敵残存兵狩りを行った。宇宙で四十三ヶ所、地球で二十七ヶ所の街やコロニー、森林や工場に無差別爆撃を実行した。もちろん市民の安全は確保、のはずだった。宇宙世紀0173年八月六日、地球連邦軍による大量爆撃が行われた。この爆撃をするにあたって連邦軍はある程度敵の生き残りがいるであろう所を分析し、一般市民は避難の上で行う予定だった。そして定刻の午前0時世界、宇宙各地で爆撃が開始された。しかし、予定通りではなかった。裏切り者だ。連邦軍のトップ達数人が狂気に走った。
 前大戦は連邦軍に大きな爪痕を残し疲弊させた。事実連邦軍の兵士達の一部が次々と精神崩壊していった。狂ってしまう。それはトップであっても変わりはない。それにその戦争自体連邦の大勝利ではなかったし、民衆を混乱させるだけの対応も多かった。前大戦よりずっと前から連邦軍は腐っていっていたのかもしれない。
 狂気に走るとは、トップ達が戦後に起こるデモや反対派、革命児、もちろん敵残存兵も恐れてのこと。つまり民間人の避難は午前一時からと民間人に告知されていたのだ。 
 八月六日は最悪の始まりだった。戦後のゴタゴタで連邦軍内部も分離状態にあったのでこの矛盾に気づかなかったのだ。というより、この兵士たちには出撃前に薬を投与し思考能力を奪いパイロット、戦闘能力だけを残してわからなくしていた。もちろんこれは大量無差別虐殺を意図した狂ったトップ達の狂気である。
 定刻0時、何の異変もない。一介の兵士たちはただ上からの指令を実行するだけだった。兵士たちはもうすでに一般市民は全て避難しているものと思っている。爆撃開始だ。世界、宇宙で、一斉に。
 0時二十分、この世の人間という生物だけで十二億人が死んだ。空前絶後の大虐殺。
 0時二十三分、世界中の兵士が異変に気づいた。すでに遅い。宇宙世紀に入ってからの人間文明を終わらせるかもしれないものだった。この爆撃をモニターで見ていた連邦のトップ、六人は笑っていたという。
 この事実は、トップシークレットとされ一般には公開されず『なかったこと』にされた。つまりその爆撃を受けた人間以外はこの爆撃の事実を知らないのである。他の無事だったコロニー、都市、基地には絶対。
 本部はまずこの虐殺を起こした六人を即刻死刑。わからなかったとはいえ爆撃をした連邦軍兵士百四二人を禁固六百七十四年の刑に処し、外界との接触を絶った。
 しかし、生き残りもいた訳だ。その生き残りたちも誰による爆撃かはわからないのだが噂は地球、宇宙を掛け回りうっすらと民衆たちは気づき始めていた。この文明史上最大の矛盾に。
 そして連邦軍、将校全員の首が入れ替わった。だがこの時の将校が一人だけ残っているという噂もあった。 
 また今のペギー教を創ったのもその爆撃の生き残りという噂も立った。真相はわからないがあの爆撃がペギー教に何らかの形で関わっていることは間違いないだろう。
 この事実は現連邦軍人でも将校以上しか知らないし、もし口外すれば即刻死刑だ。守り通さなければこの世は間違いなく崩壊するだろう。
 民衆は確実にこの事実に気づいているわけではないが、前大戦のあとという相乗効果で明らかに現連邦軍に信用はなく、過去最低の連邦軍だろう。
 そんなギリギリの状態の連邦の中だからこそ、ココはあせっていた。あいつの恐怖、敵機5機を瞬く間に瞬殺したあいつの恐怖。連邦軍ではないやつに出すぎたまねをされると、民間の反感をさらにかい、最終的には自分の長官の座もなくなり、禁固刑を本部から受けることになる恐怖を確信していた。ココも前大戦の時は大尉として戦った。少なからずココも心に変化があった。やっと掴んだ長官の座。汚い心のココだ。今はただ、あいつが恐ろしいのだ。
 「おい、まだか」
シドが言った。
「そこを曲がればつく」
タブルも言った。
 タブルの言った通り、そこを曲がると大きな鋼鉄のドア、というより門が現れた。素人目にもその扉がいかに強靭かはわかった。押すことや引くことはもちろん、手榴弾にも耐えられそうである。
「大した扉だ。だが、基地のリーダーである長官室の扉がこれでいいのか?」
タブルはため息まじりに答えた。
「ああ、ココ長官は極度の心配性というか・・・警戒心が強いというか・・・。この基地の長官ではあるんだが、長官に直接会うのは僕と二人の側近だけだ。月に一度の集会でも兵士達とはモニターを通してしかその姿を見せないしな。確かに嫌な印象を与える扉かもしれんが、長官の安全を守る為だ」
「安全を守る・・・?じゃあポンコ・ココはここに住んでいるのか?」
「ああ、年に一、二度しかこの基地の外には出ないらしい」
「妙だな・・・。まぁいいさっさと開けるんだ」
ついにこの時がきた。覚悟を決めたタブルは腰の拳銃を確かめた。
「開けるが・・・その前に中の長官と連絡をとる。いいな」
返事はなかったが、その方がよかった。まずは中のココの回線にタブルは扉の隣についているキーパネルからアクセスした。ココのデスクの上のコンピューターにコールが入った。ウィンドウを開くと扉の外側、タブル達の上に設置されているカメラの映像が映し出されていた。そこにはコールの主のタブル、そして見たことのない白髪の男が立っていた。そして音声が入った。
「長官・・・・私の後ろにいるのが例の男です。男のほうから長官に会いたいと・・・・何かあれば私がすぐに射殺しますので・・・」
恐怖がついにやって来たようだ。
「よ、よし・・・通せ」
それだけ言って回線を切った。
 早速、タブルは指紋照合をし、パスワードを入力、そして音声入力。ようやくその強固な開こうとした。
「全く・・・・たいしたもんだな」
「シド・・・お前から先に行け」
「わかったよ」
シドは部屋の中に入っていった。その後にタブルがついた。タブルは腰の拳銃に手をあて、いつでも発砲できるようにそなえた。
 部屋の中は表の扉と違い、純洋風。十九世紀のヨーロッパの家庭を模していた。まず部屋に入ると、足元には熊の毛皮、そしてソファが向かい合っておいてある。その間に高級なテーブル、テーブルの上にはローソク立てやら灰皿がある。奥を見ると暖炉があった。その上には銀製のグラスが並べられている。
 毛皮の絨毯にそって奥に行くと、鹿の首の剥製が壁に掛けられていた。その下にいた。ポンコ・ココだ。
「長官!例の男を連れてまいりました」
「お前か・・・・街の近くで大暴れしてくれたのは・・・」
そう言ってココは葉巻の先をちぎり火をつけふかした。
「アンタがこの基地の最高責任者なんだな?」
「いかにも」
タブルの右手に緊張が走る。
「ずいぶん用心深いんだな?」
「そうかね?誰でも命は大切なものだ」
「確かにな・・・・」
シドはそう言うと、ゆっくりポケットから銃を出し構えた。
「シド!」
タブルも急いで急いで銃を抜いた。
「黙って見てろ。それに安全装置を解除してない銃ではしょうがないだろ」
「え・・・?」
タブルが自分の銃の安全装置を確認した瞬間、シドは撃っていた。轟音が部屋に響いた。シドの銃から発砲された銃弾は確実にココの眉間を貫いた。
“殺られた!”
タブルは思って、シドの後頭部に狙いを定めた。
「慌てるなよ」
「うるさい、銃を捨てて床に伏せろ!さもなければ撃つ」
シドはタブルの方向に振り向き笑った。そしてもっと大きな笑い声が聞こえた。ココの笑い声だ。
「ハッハッハッハ!見抜いていたかよ」
眉間を貫かれたココが今平然と笑っている。タブルは狐につままれたような気持ちだった。
「まだわからんのか。よく考えて見ろこんな厳重な部屋から出てこないような男がだぞ、たかだかお前のような中尉が連れてきた男をただで通すわけがないだろう。今目の前に座っているココはホログラム。本物は別の場所にいて、ここにホログラムを送っているんだろう。」
「その通りだよ。まだ名前を聞いていなかったが?」
「シド・ヴァイスだ」
「そうかシド君・・・・用件はなんだね?」
シドは落ち着いた様子で、ソファを引いてどっしりと腰を掛けた。
「最高責任者であるお前の権力を使って俺を連邦軍に入れろ」
ココはまた軽く笑い
「おいシド君、何か勘違いをしてないか?私は別に君のことを気に入った訳ではないし、仲良くしようとも思わない。むしろ君は私にとって邪魔者だ。今の連邦軍に君のような男はいらんのだよ」
「こいつのような、ただ命令に従順なのが最高だよな。だがな、もうお前は俺を入れなければならないはずだ。死にたくなかったらな。俺を敵に回して、連邦軍を追われ、のたれ死ぬか、俺を入れるか。答えは一つだろう。俺が邪魔者ならな」
「面白い・・・気に入らないがな、確かにそうだ。全くお前の力は脅威としか言いようがない。が、しかし、私の権限を使えばお前を消すこともまた簡単なのだよ」
「じゃあ、勝負するか俺と。俺の前にホログラムじゃなく出てこれるんなら」
「口の減らない男だ。そんなに連邦軍に入りたいのなら入れてやる。一つ覚えておけ、私はいつでもお前を殺せる。今だってな」
「やってみろよ」
「では、お前の入軍についてのことはやっておくよ。また会おう、お互い生きていたら」
シドはテーブルの上のローソク立てをココのホログラムに向かって投げつけた。ホログラムはローソク立てが当たる寸前で消え、その奥にあるココの肖像画を破った。
 その時、アナウンスが基地内に響いた。
『敵機出現!敵機出現!基地内外の総員第一戦闘配備!繰り返す・・・・・・』
そして、天井を見上げたシドに姿のないココが言った。
「さぁシド君ッ!最初の仕事だ、せいぜい死なないようにな!ハハハハハハハハハハ!」
その下品な笑い声がアナウンスと重なったその時。シドは素早く立ち上がり驚いているタブルを思い切り引き寄せた。
「!、なんだ・・・うぐぁ!」
タブルの右太ももを銃弾が貫いた。ココが仕掛けた遠隔操作できる銃に撃たれたのだ。
「気づかないとでも思ったか。しかしいつでも殺せるというのはただの強がりじゃないようだな。敵機か、タブル行くぞ」
シドは足早に部屋を出て行った。
「お前のせいで、僕は足を撃たれてんだぞ・・・・クソッ!」
タブルも足を引きずりながら部屋を出た。
 史上最強の二等兵の誕生だ。

 

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