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> BOOK_M.GIF - 768BYTES機動戦士ガンダム 〜NO WHERE MAN〜
外伝 ペギー戦争
第一章 少年

> 少年が一人、焼け野原で泣いていた。涙は出ていなかった。しかし、確かに少年は泣いていた。周りの大地の高さはすべて同じに。人間の焼ける臭いがした。
 つい先ほどこの地に爆撃があったのである。ここには研究所があった。今となっては何の研究所であったかは見る影もない。
 少年は生まれて初めて泣いた。そしてこれが生まれて最後となった。不思議なことに、少年自身なぜ泣いているかわからないが、それはどうでもいいことだと少年は思った。少年には記憶もない。自分が何者か、なぜここにいるのか、全て。
 夜が来ても少年は泣き続けた。大地に大の字なり、きらめく星たちをみながら泣く、泣く、泣く。ここを動こうとは思わなかったのはここが自分にとって特別に感じられたからだ。ここがどういう場所かは関係ないし、どうでもいいことと思う。
 気持ちがよいのだ。泣き顔は笑っていた。
「うわああぁぁああぁぁ・・・」ただずっと。そのまま夜が更けていった。
 
 太陽はもう真上にきていた。昨日から一ミリだって動いていない。泣き止んでみると何もなかった。少年は自分に関する情報はひとつもない。思い出そうにもゼロだ。たとえ死ぬ一秒前だとしても、走馬灯もないことだ。
 実際、死ぬかもしれなかった。たった一人で焼け野原にいる訳だし、水だって飲んでいない。正確に言えば記憶の範囲内では飲んでいない。
 しかし、別に死んでもいいとも思った。少年には記憶がない。だから人生の記録もない。だから少年は昨日生まれたことになる。死んでもいいと思ったのはこんな短い人生も面白いかと思ったからだ。
 もう何時間経っただろう。死を知らせるかのように、大きな野鳥が目の先で旋回している。雄大、少し人間の死臭が鼻をつくが。
 気がつくと、少年は立っていた。荒野にただ一人。立ったのではなく立たされたと言ったほうが良い。何か内面的な、それもとてつもなく大きな力が少年を立たせた。辺りを見回すと、やはりここには特別なものを感じる。そしてもう一度大空を見上げると、相変わらず野鳥は面倒くさそうに旋回していた。地平線では青空と赤い大地が混ざり合っている。
 その時、その瞬間、少年に、いや、男に。自我が芽生えた。それは本来、人間が成長する過程で生まれるものなのだが違った。何かに、教えられたかのごとく。自分を持った。
 「うおおおぉぉおぉおぉおおおぉおああぁぁらぁぁがああぁぁぁぁぁなぁぁあ・・・・」

 野鳥がひらひらと枯れ葉が舞い落ちるかのごとく、旋回しながら降りてきた。そして男の肩にとまった。
タカかワシか、いずれかの猛禽類であろう。まるで大木にとまるかのごとくいた。
 次の瞬間、男は野鳥の頭を握り握力をこめた。一瞬で野鳥の頭は潰れ真っ赤な鮮血が男の手首をつたった。そして男は潰れた野鳥を頭から喰らった。血でのどを潤した。
 数分後、男は研究所跡へと歩んで行った。途中、いくつかの焼け焦げた死体の頭や腕、足を踏み潰したが男は進んだ。
 地表面に出ていた建造物は先の爆撃で見る影もない。男はまるで自宅へ帰るかのごとくその跡へ入って行った。崩れた瓦礫の山をひとつ、ひとつと丁寧にどかしていくと、床に地下に続いていくであろう扉を見つけた。
 男はなぜかこの扉がここにあることがわかった。わかっていたといったほうか良い。思い出したのか、恐らくなくなった記憶の一片がよみがえったのだろう。昨日からこの地を特別に感じたのもなくなった記憶のせいかもしれない。
 左腕に力をこめて、扉を引き上げた。周りに砂ぼこりがたちこめ視界を奪われた。二秒後はっきりと地下へとのびるハシゴが見え、男はそのハシゴがのびる先へとおりていった。一段一段、深く進んでいった。
 ハシゴをおりきると、そこは薄暗く少し寒気のする冷たい場所だった。目が慣れるまでは壁伝いに歩いた。地下なので目立った損害はないが人の気配は感じられなかった。しかし、爆撃の影響で時折、水滴が天井から落ちた。

通路を抜けると大きな部屋に出た。そこは研究室らしく奥にデスクが並べられこっちには実験用具からコンピューターがある。どれも乱雑になっていて整理はされていない。天井に埋め込まれているライトがチカチカと点滅している。もう何年も人が住んでいない、手入れがされていないといった感じだ。もともと人がいないのか。はたまた先の爆撃で死んだのか。この男には爆撃があった記憶はないが地上の様子を見れば大体予想がついた。

ここまで歩いてきたまでは死体らしきものもない。コンピューターは全て壊れているのか電源が入らず動かなかった。デスクの上には何かの計算表だとかデータ表の類の書類が見受けられたが特にはなかった。引き出しの中も同じことだった。実験用具にいたっては何に使う道具なのかもわからなかった。男は一通り見て回るとさらに奥に進んだ。

次のエリアは大きな、直径一メートル高さ二メートルほどのガラスの筒が通路をはさんで両サイドに並んでいた。ガラスの筒は学校の理科の実験で使うような試験管を大きくしたようなものだ。その中には培養液のような紫色の液体が入っていて、時々、泡がそのなかを上った。それを見るとこの研究所は生物関係の研究をしていたのかと連想させられる。ガラスの筒の上と下の部分は機械がついており床と天井とについてガラスの筒を支えていた。恐らくそのガラスの筒の中の状態を管理するのであろうボタンやメーターがついていた。そしてその下にガラスの筒の番号と思われる数字か書いたタグが貼ってあった。
 男はその通路を奥まで進み足を止めた。それは一番奥にあるガラスの筒がただ一つだけ割れていたからだ。そのガラスの筒は上と下にとがった鋭いガラスだけを残して割れていた。上の機械からはホースが二本ぶらりと垂れ下がっていた。タグには『G─269』と書かれていた。男はまた先に進んだ。 
 割れたガラスの筒を過ぎると次のエリアには両サイドにドアが並んでいた。各部屋では専門的な部門に分かれて作業をしていたのだろう。それには特に注目すべきものはない、最初の大部屋と同じような感じだった。その通路を真っ直ぐ進むと大きく、立派な扉が現れた。
 その扉を開けると中はまた真っ暗だ。しかし男が一歩その部屋に足を踏み入れた途端、一面が明るくなった。人間の体温を感じとってライトがつくシステムだ。部屋に入って正面に大きな大理石のテーブルと革のゆったりした椅子が置いてあった。どうやらここは応接間らしい。床にはじゅうたんがひきつめてある。奥には暖炉が、テーブルの上にはローソク立てが倒れていた。しかしここにも変わった様子はない。横にはまたドアがあった。ドアの上には『所長室』と。
 男は構わずそのドアに手を伸ばした。その時、ふと思ったことは、どうして自分はこんな場所に来ているのだろうということだった。確かにこの場所に特別な思いを感じたのは間違いない。しかしここまで来る意味はあるのかと不思議に思った。だがそれももうどうでもいいと思い男はドアの先へと進んだ。
 「・・・!?誰だ!?」
部屋の奥から声が聞こえた。人がいる。奥のデスクの後ろから確かに聞こえた。男はその声のもとへいった。
「誰だ?生き残りか?おい、返事をしてくれ」
ライトがついてその男の顔を見ると怪我をしていた。「俺は・・・」
男は答えようとしたが名前がない。言葉につまってしまった。
「何日ぶりだ・・・人の声を聞いたのは・・・・アンタ爆撃の生き残りかい?」
「・・・そうだ」
「聞いたことのない声だな。ここの研究員じゃないな・・・上から来たのか?」
「ああ」
「そうか・・・・どうなんだ?上の状況は?お前以外に生存者はいるのか?」
男の頭には焼け焦げた死体がうかんだ。
「いや・・・」
「いない・・・のか・・」
そう言うと、その男は黙ってしまった。今度は男が質問をした。
「ここの研究員はどこへ?全員死んでしまったのか?」
「い、いや・・・わからない・・・俺もここに五日前に来たばかりなんだ・・・」
 それからその男はこの五日間のできごとについて語った。

 俺の名前はシド・ヴァイス。一週間前、家族とこの土地にこの研究所で働くためにやってきた。俺は単なる実験助手だったからここで何の研究をしているのかはわからなかったが。
 一日目、俺は上の街に部屋を借りた。そしてこの研究所にやって来た。ここは施設の規模は大きい割に研究者はたった七人の男だった。それも全員、少なくとも五十歳を過ぎた初老の男たちだった。昔はたくさんの研究員でやっていたらしい。俺はデータの計算やコンピューターの管理が主な仕事で、実験や研究は一度も見たことがない。
 二日目、昨日にまして仕事が忙しくなった。七人の研究者たちは何かあせっているようだったが、俺には関係なかった。一人娘がなれない土地で元気にやっていけるか心配だったがな。そして俺が帰ろうとした時、一人の研究者がチップにデータをうつしておけと俺に言った。そのデータは機密度が最も高いシークレットファイルだった。ファイルの中身は数字の羅列でそれを読み取るには何か方法があると言っていた。思いがけない残業を終えた俺は足早に帰路についた。 家に帰る途中、上空を戦闘機らしきものが飛んでいた。今思えば、あれは爆撃のための視察にやって来ていたのかもしれない。
 三日目、俺はまた計算などの仕事をしていると研究者の一人にこの所長室に呼ばれた。そして、俺の顔を見てその研究者はこう言ったんだ。
「私たちはこれからこの地を後にする。君は数日だがよく働いてくれたよ」と。何を言っているのか意味がわからずにしているその時、後頭部を思い切り殴られた。そしてそのまま。
 四日目、大きな揺れに俺は起こされた。もちろんこの所長室で。そして爆音が聞こえた。その時、爆撃にあっているとわかった。と同時に体が動かないこともわかった。左足の上に倒れた棚がのしかかっていたからだ。俺は精一杯あがいたがどうにもできなかった。奇妙なことにその夜、近くでガラスの割れる音がしたよ。
 五日目、ついに体力が底をついた。足の感覚もなくなった。腕も上がらなくなった。そうして死を実感していたところにアンタが来たんだ。

 その男は語り終えた。静かに。
「で・・・どうなんだ?やはり上にはアンタ以外に生存者はいないのか?」
「ああ・・・いない。」
「そうか・・・せめて家族が生きていればと思って、生きていようと思ったがな・・・」
またその男は黙った。そしてまた。
「そうだ・・・これを・・・」
そう言ってその男は一通の手紙を男に差し出した。
「所長室に呼ばれた日、朝家を出るとき妻にもらったんだ。読んでもらえないか・・・・ああ、目をやられたんだ。爆撃の時にな。頼む・・・」
男はその手紙を開いてみると、丁寧な文字が見受けられた。その文字からは手紙を書いた人間の人柄がうかがえた。そして読んだ。
「今日もお仕事がんばっているのでしょう。あなたは昨日、こっちに越してきたことを後悔してシュリのことを心配しているようでしたが、私もシュリもそんなことは気にしていません。とにかくあなたのほうこそ早くお仕事に慣れて、ください。お帰り待ってます。・・・と書いてある」
男は読み上げた。
「そうか・・・・少し遅かったようだ・・・・これでもう未練はない。アンタにこんなこと頼んですまないがそこの銃で俺を家族のもとへ行かせてくれないか・・・」
その男の足元にその男のものだろう銃が落ちていた。男はそれを拾って言った。
「わかった」
「ありがとう・・・アンタ名前は?」
「・・・名前などない。俺には・・・」
「さぁ・・やってくれ・・・」
男は左手の人差し指に力をこめた。
「今、行くよ・・・二人とも・・・」


 研究所の外に出ると、太陽は相変わらず輝いていた。荒野には死臭が。男の手には所長室のデスクの引き出しから見つけたノートがあった。左のポケットには銃が。
 男は上にTシャツ下にズボン、靴ははいていなかった。
 あてもなく街の方に歩いて行ったがやはり人の気配はなかった。建物は全て倒壊していた。
 その時、かすかに人の泣く声が聞こえた。その方向に歩いて行くとやはり少女が一人泣いていた。
「どうした・・・?」
男が少女に尋ねるとこう答えた。
「ママは死んだの・・・パパはいないの・・・・」
静かに少女は泣き続けた。爆撃から二日ずっとここでこうして泣いていたのだろう。
「お前の名前は?」
また男が聞くと少女はこう答えた。
「・・・シュリ・・・シュリ・ヴァイス・・・・」
「お前の親父も死んだよ。俺が殺した。悲しんでいる暇があるなら父を奪った俺を、母を奪った戦闘機を憎め!そうすればお前は強くなる。俺はお前を助けようなどとは思っちゃいない。いいか、この荒野から生き残りたかったら、死人の肉を喰らってでも生きようとしろ。心の持ちようと後は運だ。生きてみろ」
そう言い放って男はその少女シュリに背をむけ歩いて行った。また荒野に少女の泣き声が響いた。
 
 男は道など知らなかった。しかし歩いた。夜になっても歩き続けた。そうしていると向こうから一台のジープがやって来た。そして男の前で止まった。
「アンタ、あの街の生き残りか?俺たちゃ連邦軍のもんだ、生存者は俺たちの基地に連れてくことになった。さ、乗ってくれ!」
助手席の男が言った。そして男はジープの後部座席に乗り込んだ。
 ジープはUターンしてスピードを上げた。ジープには運転席と助手席に一人ずつ、二人の男が乗っていた。助手席の男は煙草に火をつけながら言った。
「俺たちは視察だったのよ。あの街にまだ生存者がいるのかを確かめるな。アンタを見つけた。それでさっき本隊に連絡したから今頃、大きなトラックで向かってるんじゃねぇか?」
 ハンドルの横の無線機が音を上げた。助手席の男はすかさず無線機をとり
「あい、こちら二十七班。・・・・・あい、あい・・・あ、そうですか・・・はい、こっちにも一人・・・ええ・・はい、はい、それじゃあ・・・」
男は無線機をもとの位置へ戻した。そして上半身を後部座席に向けて言った。
「今な、本隊が一人、女の子を保護したってよ、アンタ知ってるか?」
男はフッと笑みを浮かべた。
「いや、知らんな・・・・」 
「そうか」
そして男は体をまた前へ向けた。でこぼこの道路をジープのライトが照らす。煙草を深く吸い、大きくはいた。そして言った。
「そうだ。アンタ名前は?」
男は一、二秒間をおいて答えた。
「・・・・・シド・ヴァイスだ」

 

 

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