> BOOK_M.GIF - 768BYTES機動戦士ガンダム 〜NO WHERE MAN〜
第五章 レジスタンス

 「ふあぁ・・・」
バイタリティーが、浮上して二時間ほど経った時だった。
「しっかし、暇だな・・・」
イチロウは不謹慎だと思いながらも声に出したくなった。
「うむ、しかしいつテロリストが攻撃してくるとも分からないからね」
横から口だししてきた男はひょんなことからイチロウと友達になっていた。
 名前はダン・オプセン。彼は四十五歳で独身らしく、ひげが濃くて非常にマッチョだった。彼は仲間から『ダンディ』と呼ばれているらしい。彼もそれを専ら気に入っている。
 「しかし、イチロウ君もわかるねぇ、やっぱり歌はザク・ザ・ロックだよね!」
イチロウははつらつと言い返した。
「そうそう!やっぱ彼らが一番さ!」
イチロウが言っているザク・ザ・ロックとは若い人の間で大人気のバンドだ。
 ボーカルのザク・ワルシャワ、ドラムのドム・オレラーノ、ギターはズゴック・ジョセフィーヌ、そしてベースのギャン・ハシモトからなるロックバンドだ。彼らは戦争反対を歌にして宇宙全体の平和を呼びかけている。イチロウもそこに惹かれたのだ。
「しかし、彼らのよさがわかる中年がいるとは思わなかったよ!」
「ハハハッ!中年のハートをここまで痺れさせるのは彼らだけですよ!ハハハハハ!」
 ダンディが笑い終えるのと同時に船内にアナウンスが流れた。
「イチロウ・イシイ、イチロウ・イシイさんは至急コクピットまで来てください・・・。繰り返します・・」
「なんだ?」
イチロウはアナウンスが終わる前に言った。
「コクピットね・・・なんかヤバそうだね」
ダンディの言葉を信じたわけではないが肩が急に重く感じた。
「まぁ、大丈夫だと思うよ」
 イチロウは部屋をでて船内地図を確認してコクピットの前までたどり着いていた。
「ノックすんのかな?」
イチロウの右手がドアに触れる直前にドアが開いた。
「ようこそイチロウ君」
そう言ったのは体ががっちりしたオッサンだった。
「まぁ、座りたまえ・・。と言っても座る場所がないな、クルーが座っている・・、まぁ我慢してくれ」
じゃあ言うなや!とイチロウが心の中で思ったことは言うまでもない。
 「では早速、本題に入ろうか・・。実は・・」
オッサンの声が途切れた。艦が大きく揺れたのだ。
「なんだ!?何事だ!」
オッサンが声を張り上げた。
「レーダーに大量の熱源を感知しました・・!」
「気づれたか・・・・!」
 コクピットにまた声を張る男が現れた。
「なんだ!?何が起こった!?」
ジャバトだ。
「奴らに気づかれた!早急に出てくれ!」
「あいよ!」
ジャバトは走ってコクピットを後にした。
 イチロウは完全においていかれた。
「じゃまだ!どけ!」
イチロウは知らない男にふっとばされた。イチロウはただそこに座り込んでしまった。何も出来ない、無力を味わった。しかしその間にもコクピットに声がほとばしっていく。
 「ミサイル用意だ!」
オッサンが大声でいった。
「艦長!ミサイルはありません」
「えっ?では迎撃用バルカンだ!」
「装備されてないです!」
クルーのイライラがイチロウにも伝わってきた。
「では何があるんだ!?」
「信号弾、ビーム砲、主砲だけです!」
「ではビーム砲で敵を近づけるな!主砲の発射準備を!」
「イエッサー!」
 命令のすぐ後にビーム砲が発射された。閃光は敵の群れの間にうまく伸びていった。それと同時に大きな爆発音がこだました。
「よっし!」
オッサンはガッツポーズをひとつ見せた。
「やった・・!」
イチロウもこの一撃ですこし気が楽になった。
「・・・艦長!敵が集まってきます・・・さっきより・・多い!」
 その時、格納庫から入電が入った。
「オ〜!こちらはアンガスで〜す!」
こんな時にこんな調子で喋れるのはヤツだけだと皆思った。
「出られるのか?」
「オウケイ〜!」
アンガスに緊張はないのか?とイチロウは思った。
「頼んだぞ!」
今この危機を救えるのはアンガス達だけだ!とイチロウは思った。いや、ここの船員たち全員が思っただろう。
 「なにしてんだ・・!」
イチロウの足がいつの間にか格納庫に向かって走っていた。
「この角のところだな・・!」
イチロウは角を曲がり格納庫に入った。
 アンガスはバクソウと言うモビルアーマーに乗り込むところだった。
「アンガス!」
「ホワット?イチロウさ〜ん、ここは危ないですよ〜!」
「アンガス!頑張れよ!」
それを聞いたアンガスは笑顔を見せてすぐさま出発して行った。
 アンガスが行ってからすこしの間イチロウはたたずんでいた。それが悪かった。
「邪魔だ!ガキ!」
声と同時にイチロウの体は前に吹っ飛んでいた。ドカッッ!と頭をぶつける音が響いた。足元がふらふらする。それにあまりの激痛に周りの音が聞こえないし目も正常に機能していない。
 「大丈夫かい?さぁ、こっちへ」
誰かがイチロウの手を引き上げた。イチロウは連れて行かれるままに歩いた。
「ここに居れば安心だ」
イチロウは椅子らしきものに座った。
 少し時間が経った。周りが少し見えてきた。何か見覚えがある。そうださっきアンガスも同じところに・・・。
「ここって、バクソウのコクピット!?」
ビンゴだった。まさにさっき見かけたモビルアーマーだ。
「くっ!・・出られない・・!」
コクピットは完全にロックされていた。イチロウの顔はみるみるうちに青ざめた。
「おいもう出てもいいぜ!準備OKだ!」
どこからともなく声が聞こえた。
「違う!オレは違うんだ!」
イチロウは叫んだが無常にもコクピットの中に反響するだけだった。
「早く出ろ!後ろが詰まるだろうが!」
「やばい・・・」
やがてコクピットの中に違う声が響いた。
「こちらでその機体を発射させる。軍人ならしっかりしろ!」
「軍人じゃねーよ!」
バクソウがイチロウの意に反して動き出した。そして一気に加速していった。
 バクソウはまたたくまに空に飛び出た。しかし、すぐに機体が落下を始めた。
 イチロウはコクピットを急いで見回した。
スイッチらしきものばかりで分からない。適当にいじったが何も無かった。
 バクソウの機体がとうとう完全に九十度下を向いた。それと同時にイチロウの体が前のめりになった。それと同時にバクソウが起動し始めた。
「起動してる・・・やったぞ!」
イチロウは手前のレバーを引いた。バクソウの体が平行になった。
「よし・・!いける!」
イチロウは艦に向かって加速した。
 ピピピッ・・!と不吉な音をイチロウは気づかずにはいられなかった。レーダーに敵機だ。二、三機後ろから向かってきた。前からも二機の戦闘機が見える。
 後ろから数本のビームがバクソウの近くを駆け抜けた。
 イチロウは即座に方向を転換させた。後ろの敵も付いてきた。しかし前の二機はまるっきり方向が違う。イチロウはその二機がバイタリティーに向かっていることに気づいた。
 イチロウは後ろの敵機に注意しながら艦に通信を試みた。
「こちらバクソウ!こちらバクソウ!」
ノイズ音の中でひどかったが確かに艦からの声をイチロウは逃さなかった。
「こちら・・・・だ。こちらはバイタリティーだ!」
「下から敵がきてる!」
後ろからビームが飛んできたの気にせず叫んだ。
「・・・こちらでは間に合わない・・!撃墜は任せた。頼むぞ!」
「えっ?」
一瞬頭が白くなったが 後ろからの攻撃に気づいて思考が蘇った。
「やるしか・・・ない!」
 バクソウは一気に加速した。後ろの敵も加速についてこれなかった。
 前の二機はすでに艦底から攻撃を開始していた。
「落とさせるか・・・・あそこには母さんが・・・みんながいるんだ!」
イチロウの指はすでに発射ボタンにかかっていた。
 これをおしたら人殺しだ・・でも・・・だけど撃たなきゃみんな死んでしまうんだ!
 ボタンはすでに押されていた。バクソウから二つのミサイルが発射された。
「行け・・!」
ミサイルは一つ外れた。しかしもう一つは敵に当たった。
 「やった!いける!あと一機だ」
しかし残りの一機はこちらに気づいて攻撃してきた。
「やられるものか!」
イチロウはわかっていた。敵が攻撃した瞬間にスキができることを。
 その時が来た。イチロウは敵のビームをギリギリかわし、ミサイルを発射した。
ドゴォォォォンッ!
 敵の爆発音が響いた。勝ったのだ!
 勝ったのはイチロウだけではなかった。アンガス達も勝利をつかんで帰還するところだった。
「生きて帰れるのか・・・・・・・」
 イチロウのバクソウはハッチの手前で減速した。ハッチに人がたくさん集まっているのが見えた。既に中にはアンガス達も降りていた。
「よくやってくれたなぁ!アンガス」
作業服が汚れまくっている男が言った。
「当然で〜す!誰もやられなかったのは奇跡で〜すね!」
「確かにだれもやられなくて良かった。あぁ、それと七号機のバクソウで出たのは誰だ?」
「ホワット?誰でしょ?」
七号機に乗っていたのは無論イチロウである。
 「誰だかわからないのか?デンス」
アンガスの後ろにいる男が口をひらいた。
「ええ艦長。隊員は全員帰って来てるはずなんですがねぇ・・・。お、噂をすればですぜ」
イチロウのバクソウがハッチに入ってきた。
「一応銃を構えておけ!」
ハッチがゆっくりと開いた。イチロウは周りを見渡した。それをみた全員が腰を抜かした。
「イチロウ・・・?」
艦長はポカンと口をあけていた。
「オ〜!!ハハハハ!イチロウさんでしたか〜!」
「ガハハハハ!やるじゃねぇか!ボウズ!」
アンガスとデンスが大笑いした。
 イチロウはゆっくりとコクピットを降りた。
「ど、どういうことだい?」
艦長が聞いた。イチロウはここまでの出来事を鮮明に話した。
「なるほど・・・いや、君はよく頑張ってくれた。この艦を救ってくれた。礼を言うよ」
「いえ・・そんなことは・・」
「とにかく疲れたろう・・部屋で休むといい」
「あ、はい・・じゃあ」
イチロウは格納庫を出ようとした。
「あっと、それと・・!!」
「はい?」
「なんで操縦ができたんだい?」
「あぁ、町のゲームセンターに似たようなのがあって、自分はそれワンコインで全クリできるんで」
そういうとイチロウは去って行った。
「オ〜、しかしゲームが上手いからと言ってもあれは出来すぎデ〜ス」
「・・・あぁ・・確かにな」
 
 イチロウは部屋の扉を開けた。
「あ!イチロウ君!」
真っ先にダンディが話しかけて来た。
「どこ行ってたんだい?知ってるでしょう?テロリスト達が!」
「あぁわかってるよ・・」
イチロウは言葉すくなにベッドに倒れこんだ。

 ここはバイタリティー内部の会議室だ。
「緊急時の動きに無駄がありすぎますね」
艦長が話しかけた相手はニッポンのレジスタンス作戦司令部最高責任者バディガ・オルフィニルだ。
 彼はレジスタンスでも『巨体の知将』と呼ばれるほどの切れ者で巨体だった。格闘のエキスパートとしても有名だ。
「確かにな・・・そこは改善の余地アリだろう。・・それより・・さっきの話だが・・」
「ええ・・」
艦長の声が小さくなった。
「少年を意図的にバクソウに乗せた輩がいます。スパイの可能性が」
「信じがたいが・・・あらってみよう・・・。それでは私は行くよ。部下に作戦を叩き込まねば」
「そうですか・・・。では後で」
「ああ」
バディガは部屋を後にした。
 艦長は一人で天井を見上げていた。

 PM八時三十七分。
「ん・・・あぁ・・寝てたのか・・・」
イチロウが目を覚ました。
「やぁ、起きたかい」
「あ・・ダンディ、今何時だい?」
ダンディはおもむろに自分の鞄から時計を取り出した。
「八時三十七分だよ。そういえば皆食堂に向かってたなぁ」
「じゃあ僕らも行こうか」
 二人は腰を上げ部屋をでた。部屋から食堂はさほど遠くなくすぐに着いた。中はすでに人で溢れていた。
 「皆来てるみたいだね」
二人は食堂のおばちゃんからごはん、味噌汁、から揚げ、サラダと順に貰っていった。
「ふむ、しかし座る場所がないな・・」
ダンディは周りを見渡していた。確かに座れる場所がみあたらない。
「本当だ・・・どこも無い・・」
 「オ〜!イチロウさ〜ん!こっちですよ〜!」
聞き覚えのある声と口調。
「アンガス!」
「ここで〜す!」
食堂の奥のテーブルにアンガスと数人の男が座っていた。空席がちょうど二つ見えた。
 二人は空いた席に腰を下ろした。
「助かったよアンガス」
「いや〜それほどでも!それよりイチロウさん、バクソウに初めて乗ってあの腕前は凄いで〜す!」
「いや僕の友達にはもっと凄いのがいたよ」
イチロウはやや謙遜した感じで行った。
「それでも凄いで〜す」
 「本当にスゴイっすよ!」
テーブルに座っていた男の一人が目を輝かせてしゃしゃり出て来た。
「えっと・・あの・・」
「あっ!申し遅れました!作戦司令部の隊員のコルファン・アマレルであります!」
「あ、よろしく・・」
「こちらこそ!」
「さぁ!もう食べたらどうだい?」
話が読めないダンディが厳しく言った。イチロウはから揚げに食いついた。
 やがて人の波も収まって食堂が静かになっていた。
「会議があるので私はイキマ〜ス」
「そうなんだ。じゃ、またね」
アンガスはゆっくりと通路に消えた。コルファンもすぐ後に行ってしまった。
「我々はゆっくり味わって食べようじゃないか!」
ダンディの声が大きすぎて食堂のおばちゃんが睨んだことをイチロウは知らないふりをした。

 時計が九時を指した。
 会議室には数名の人たちがいたが一つイスに空席があった。
「バディガさんはどうしたんだ?」
「オ〜!あの人が遅刻とは有り得ませ〜ん!」
「パデム、知らないか?」
「いえ、私は何も」
黒い髪で短髪のこの男はトップガンズ十二部隊の隊長だ。
「どうしたんだ?一体?」
「部下に探してもらいましょう」
「うむ、そうだな・・パデム、行ってくれるか?」
「わかりました」
パデムは部屋を足早に出て行った。
「ウ〜ン・・・あの人が遅刻なんて・・・悪い予感がしま〜す・・」
「・・私もだよ。」
艦長が座り手の無いイスを眺めながらいった。
 「いやぁ食った食った!」
「ダンディ食うの遅すぎだろ・・!」
「よく噛まないといけないからね!ハハハ!」
「もう行こう」
二人が食堂を後にしようとしたときコルファンが息を切らして入って来た。
「あ!イチロウさん!」
「どうしたの?急いじゃって・・」
「それが司令部の指揮官・・僕の上司が行方不明なんです!」
「そいつは大変だな・・・僕たちも一緒に探すよ」
ダンディもコクリと頷いた。
「助かります・・・ではイチロウさんは左を、ええと・・・・あなたは真ん中を僕は右を探します」
「任されよ!」
ダンディが元気よく真ん中の道に駆け出した。

イチロウも道をすすんで行った。
 「そういや顔も何も名前さえしらないな・・・・」
イチロウはとりあえず通路を進んで行った。
 数分と経っただろうか。静寂は急にやぶられた。
「ウァァァァァァァァァァァァァッッッッッ!」
コルファンの悲鳴だ。イチロウは来た道を急いで戻っていた。イチロウは肩で息をしながら別れた道まで戻っていた。ちょうどダンディもそこに走って来た。
「聞いた!?」
イチロウの言葉にダンディは激しく首を縦に振った。
「コルファンはこっちだ急ごう!」
 二人はコルファンの向かった先に走った。少しすると道は突き当たりになっていた。イチロウは突き当りのところで止まった。
 イチロウは左に目を向けた。何も無い通路が伸びている。右を見た。行き止まりだ。だがそこにはコルファンが座り込んでいた。
「どうした!?」
「あ・・あぁ・・・・」
コルファンが声にならない声を出した。そしてゆっくり右手で行き止まりの角を指した。
 イチロウはそこを見た。ちょうど影になっていて隠れていたがよく見るとそこには男が倒れていた。
「うっ・・・・!」
吐き気をイチロウは堪えた。ダンディも青ざめている。
 そこは惨劇だった。血が男の体をしたたっている。壁にも血はべっとりとついていた。ダンディがゆっくりと死体に近づいた。その死体がバディガ・オルフィニルその人だとわかる認識票がある。
「これは・・・ひどい・・・頭から血が噴き出している・・」
その言葉に皆凍りついた。
「一体どうやったらこうなるんだ・・」
ダンディが合掌しながら言った。
「うっ・・・うぅ・・・・・」
コルファンの泣き声が聞こえ始めた。
「まだ犯人が近くに居るやも知れん」
「ひぃぃぃぃ!」
「そんなにびびるなよ・・・」
コルファンにそう言ったイチロウもびびっていた。
「誰かに知らせなくちゃ・・・・」
「私が行こう」
そういうとダンディは走って行った。
「コルファン・・・武器とか持ってる?」
イチロウは恐る恐る聞いてみた。
「はい・・・銃を・・」
「今、襲われたら・・」
「ひぃぃぃぃぃ!」
コルファンはまた発狂した。
「ゴメン・・」
イチロウはどうしても気になったことを聞いてみた。
「この・・・死に方って有り得るのか?」
「ぼ・・僕が知ってる限りでは・・あ・・ありません・・!」
「じゃあ・・一体・・!」
 少し間が空いて人が数人走ってくる音がした。イチロウが目をやるとダンディが艦長、アンガス、パデムを連れて来ていた。
「どこだ!」
艦長は殺気立っていた。
「こっちです・・・」
それを見た一同は驚愕した。
「そ、そんなバカな・・・・」
艦長が弱弱しく言った。
「オ〜マイガ〜!」
「死んでいるようだな・・・・」
パデムが重い口をあけた。
「これで生きていたら化け物だよ・・」
艦長が死体に近づきながら言った。
「しかしこの死に方は・・・?」
「見たことありまセ〜ン!」
艦長が惨劇をよくよく見た後イチロウとコルファンに向かって話しかけた。
「最初に発見したんだね?」
「・・ええ・・」
イチロウは小さく答えた。
「これは内密に頼む」
「・・え?」
「内密にしろと言っている!」
艦長が怒鳴った。
「こんなことがばれたらパニックになるだろう・・コルファンお前もだ・・ただ発見時のことを聞かせてくれ」
コルファンは小さく頷いた。
「ではイチロウ君ここは私たちに任せて。くれぐれも内密に・・・。後・・・ええ・・」
「ダンディです」
「ダンディさんも内密に」
そう言うと艦長はパデムと会話を始めた。
「立ち入り禁止にしなくては」
「そうですね」

 イチロウとダンディは部屋の前まで来ていた。二人とも顔に生気が無かった。
「さぁ、入ろう・・」
ダンディの声にイチロウは反応しなかった。
「しっかりしなさい!」
ダンディの大声でイチロウはハッと我に返った。
「あ、ごめん・・」
 二人は部屋に入った。もう中の人達は休んでいた。黒人の男はベットで横に。ぶつぶつ独り言を言っていた男は寝言を言っている。イチロウがここに初めに来たと時寝ていた男はまだ寝ている。マフィアは居なかった。
「ぐっすり寝なさい・・」
そう言うとダンディは自分のベッドに座り込み、すぐに横になった。イチロウもすぐベッドの中に入り込んだ。
 イチロウは暗くなった部屋で考え事をしていた。一体誰があんなことを・・・?テロリストたちの目的は・・?
 イチロウの頭はいっぱいだ。それと同時に恐怖が取り巻いていた。

 翌朝、テロから一日。
 イチロウはふと目を覚ました。以外なほどに頭は冴えていた。
 一度寝返りを打ち、ダンディの寝ている逆にベッドに視線を向けた。すごいいびきだ。なんでさっきまでこんな騒音に気づかなかったのだろうと思った。
 しかしうるさいいびきには思い出があった。昔、サブロウの家にみんなで泊まったときゴロウのいびきで皆眠れなかった。その中でぐっすり寝ていたシロウもまたすごいと感じていた。
 急にイチロウの胸に何かがこみ上げてきた。イチロウはそれをグッと押さえ込んだ。
 それから十分経っただろうか誰かの目覚ましが鳴り出した。イチロウはダンディのだと気づいた。しかしダンディはまったく起きない。しかたなく、イチロウは目覚ましを消そうとベッドから出た。その時だ。
「うるせーなっ!誰だっ!?」
イチロウは一瞬ビクッと体を動かした。
「ったく!うるせーな!」
声の主はマフィアだった。マフィアはそのまま部屋を出て行った。
 イチロウはすぐさま自分のベッドに戻った。マフィアが帰ってくる音がしたがイチロウは寝たフリをした。
 数十分もしたら周りも皆起き始めた。
 ダンディもあくびをしながらベッドから出てきた。
「眠れたかい?イチロウ君」
「え?あぁ・・・まぁまぁね・・」
「そうかそれは良かった!」
そう言うとダンディはストレッチをおっ始めた。体が大きいから邪魔だ。
「ねぇ、ダンディ。今日は早めに食堂行かない?」
「え?あぁそうだね。席がなかったら困るしね」
イチロウはダンディがストレッチが終わるまで待ってその後一緒に食堂に向かった。
 まだ早いせいだろう、中はまだほとんど人が居なかった。二人はおばちゃんからパンとベーコンとオレンジジュース、サラダをもらい適等な席に座った。
 時間が経つにつれて食堂が賑やかになってきた。そしてその中に一人だけ目にとまる男がいた。
 その男は鋭い目つきで周りを見渡している。黒いスーツを着てネクタイもきまっている。隣には付き人らしき人がいて、朝食を席に置いた。
 男は朝食に不服そうな目をしながらパンにかじりついた。
 「メドリー・ロドルファス」
ダンディがベーコンをゆっくりか噛みながら言った。
「悪徳政治家メドリー・ロドルファスだよ。裏じゃ何やってるかわからん奴だ・・。メディアを買収して嘘の情報を流してるなんて噂もある。まさかレジスタンスとは・・気をつけた方がいい」
イチロウはすこしの間ロドルファスを見ていたがすぐにパンに視線を戻した。
 食堂が完全に埋まってしまった頃、艦内にアナウンスが流れた。
「今日十時、あと三十分ほどでアメリカに到着いたします。それから本部までさらに三十分で到着します」
「一時間か・・・ダンディが食い終わる頃には半分過ぎてるかな・・」
ダンディはまだパンを三口しか食べてなかった。

 イチロウが朝食を食べ終わって十分たった。アナウンスからは二十分経っていた。ダンディはまだ食べていた。
 暇になったイチロウは食堂を見回していた。するとマフィアが食堂に入って来た。
「彼、同じ部屋だよね?」
ダンディが言うとイチロウはすぐに言い返した。
「あいつむかつくんだ・・。・・・何か、犯人っぽいし」
「ここで言っては駄目だよ」
「うん・・・」
 少しの間会話が全く無くなった。ダンディは残ったものを口に放り込み「もう行こう」と言った。イチロウも逆らわなかった。

 

 

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