> BOOK_M.GIF - 768BYTES機動戦士ガンダム 〜NO WHERE MAN〜
第四章 外側の人々

> ジリリリリリリリリリリリッッッッ。今日の朝はゆっくりできそうもない。もっとも、ゆっくりするつもりもないが。
 この音は何の音だろうか。基地内に響き渡るこの音は一体何なんだ。クソ、うるさいな。ゴロウは目覚めた。ジリリと響くこの音の正体は警報ベルだ。火事でも起きたのか、目覚めたばかりでゴロウはまだしっくりこない。とりあえず隣でまだ寝てるアランを起こしてやる。このベルの中でも寝ていられるなんて幸せな奴だ。ここが我が家のベッドの上ならどんなに素晴らしいだろう。
「ほら、起きろ・・・・もう朝・・・みたいだ」
ゴロウも完全には起きていないようだった。
「ん・・・・ああ・・」
何とか目覚めた二人だった。ベルは鳴り止まない。
 「何のベルだ?こりゃあ」
「さあ?火事かな?」
「火事だとまずいな。こんな閉鎖された場所じゃ」
「どうする」
 八時十六分だ。二人の頭の中には『死』の文字が浮かぶ。しかしパニックになっていたのはここだけではなかった。
 パニック、この恐怖はこの基地、この街、いや、地球規模で広がっていた。
 その恐怖をこの街で最初に見たのは、カンナムラ・フェリクス伍長だった。伍長はその時の様子を次のように語った。
「ええ、光ったんですよ、街が。遠くですがね、はっきり見えました。ピカーッッって、そう光ったんですって、次の瞬間でした、ドガーーンッッッッって。そしたら飛んできたんですね、戦闘機が。その時わかりました、あっ爆弾が落ちたんだって」
 八時十八分、基地内は沸いていた。
「爆撃!?本当かよっ!」
「一体誰がっ、被害状況は!?え!?わからない〜!?どうなってんだっ!」
「テロじゃないのかっ!?」
「爆撃はまだ続いているのかっ、出撃できるまで後どのくらい掛かる!?」
「いや、だからですねっ、今、こっちでも調べてるとこなんです。え!?サイフ落とした!?知らねぇよ!」
「市民の救助に行け!早く、速くだよっ!」
「出撃準備を進めろっ!くそっ、なめやがってぇ!」
「宣戦布告だ、この野郎ォ!」
「俺のフィギュアの腕折ったの誰だよ!限定版なのにぃ!」
「情報伝達、急げっ!被害を最小に抑えろ。連邦軍の意地に掛けてっ!」
 地下室は静かだった。上で起こっていることは、何もわからない。
「サブロウ達、今頃学校行ってるかな。サブロウ、待ち合わせに行かなくて、怒ってるかな?」
 ドンドンドンドンッ、ドンドンッ。誰かがドアを叩いてる。ゴロウは自分の部屋みたいに返事をした。
「はい」
「お、おい君達、爆撃だっ。逃げるんだよ、待ってろ、今開ける」
あの男だ、管理人の男だ。鍵を開けようとしているが、よほど焦っているのか、なかなか開かない。その内廊下の奥から別の男が叫んだ。
「おい、集合だ、中佐から何かあるらしいぞ」
「お、おう。わかった」
 管理人は行ってしまった。鍵はまだ開いていないのに。しかし、急いで行ったので、鍵を落として行った。
“しめたっ”
ゴロウはドアの下の下窓から鍵を拾って鍵を開けた。
 「アランッ、逃げるぞ、運気がやって来たぜ!」
ゴロウはアランの腕を掴んで部屋を出た。
 廊下を走り、階段を駆け上る。
“逃げ切ってやるっ、もう誰も止められない、どんな難関も平気さ、家に帰ってやるんだ。掛かって来いよ”
息をすることも忘れて走った。
 中央ホールでは、ウスリー中佐の話は終わるところだった。
「・・・・・以上のことを踏まえて、各自、持ち場に就いてくれ。何よりも人名を優先しろ」
「イエッサ!」
揃った声の中で1人だけやる気のない声を出す男がいた。そう、ジェノバ中尉、その人だった。
「イエッ・・・サァ・・・・」
「どうした?元気がないぞ。いつもの様な元気がないぞ」
「いやぁ、ロレーヌの奴が来てないもんで・・・どうしたのかなぁって」
「そう言えば来てないな。なに、ただの風邪だろ」
「そうだといいですけど。何か、嫌な予感がするんだよな・・・・」
「ハッハッハッ、気のせい気のせい。さっ、持ち場に就け、人名が掛かってるんだからな。ホラ、行け」
ポンと中佐は中尉の肩を押した。
「へい」
ふざけた返事で部屋を出た。ロレーヌ中尉のことが気になる。
 走って走って、ドアの前、十メートルだ。でもすぐそこで兵士が二人、話している。
「アラン、静かに歩くんだ。俺が先に行く、俺が行ったら来い、いいな?」
「う、うん」
 ソロリ、ソロリ、ゴロウはドアに辿り着いた。二人の兵士は話に夢中だ。ドアの向こう側に行ってゴロウはアランに手招きした。それを見たアランはうんうんと頷いた。
“兵士は話に夢中だし何とかやり過ごしたな”
 そう思った時だ。アランが何を思ったのか、兵士に近づいて行った。
“わっ、バカ、何やってんだ、早く来いっつーの”
「ん、何だ、このガキ」
「さぁ?誰だ?」
兵士はアランに気づいた。
“や、やば・・・”
ゴロウは汗が噴出してきた。
 「ショラァァ!」
何てことだ。アランが兵士にチョップを食らわしたではないか。
「!」
「ぐっ」
“!”
バタンッ。ドアを蹴り飛ばしてゴロウが兵士に向かって跳んだ
「何なんぶっっ」

跳び蹴り一閃、兵士の顔を捕らえた。ゴロウは続けざまに倒れた兵士の顔面に足技を、と言うより、思い切り顔を踏みつけた。
 グシャッッ
「こ、こいつぅ!」
もう一人の兵士はゴロウを抑えようとした。
「ぐっ!」
必死でゴロウは抵抗したが、所詮は子供、大人の兵士に力で勝てる訳もなかった。アランはただ見ているだけだ。
 「何なんだお前ら、ちょっとこっちに来い。まったく、この忙しい時に・・・・」
次の瞬間、兵士は悲鳴を上げた。
「うがぁぁぁ!」
咄嗟にゴロウは兵士の腕を払い、飛び退いた。兵士の腕からは血が流れていた。ゴロウの口にも血がついている。
 「オラッ!行くぞっ、アランッ!」
「は、はい」
アランはあまりのゴロウの形相に恐怖さえ感じた。
 また走り出す二人。アランは聞く。
「ゴロウ、さっき兵士に何をしたの?血が出てたけど・・・」
「・・・・腕に肉を噛み千切った」
それでも二人は走り続けた。
 走り続ける内、行き止まりに着いた。
「ゴロウ、出口、知ってるのかい?」
「いや、知らん」
ゴロウの険しい顔は変わらなかった。アランは息が切れ始めていた。
「・・・・別の道を探そう」
「うん」
 この時、ゴロウの頭に中には『二手に分かれる』という策もあった。もちろん一人のほうが身軽だし、逃げられる確率も高いだろう。しかし、アランを置いて行くことはできない。
 二人はまた走り出すのであった。二人のその姿はまさに『無我夢中』だった。そして、ここでついに・・・・
「ま、待ってゴロウ・・・・」
「?、どうした?」
「もう走れないよ。休もう」
アランは膝に手を突いて、息を切らして言った。
「何言ってんだ、もうちょっとだよ。さ、走ろう」
「もうちょっとって、いつになったら出口に着くんだよ。もう二十分も走りっぱなしじゃないかっ!」
「そんなこと言われても、俺も出口の場所を知ってる訳じゃないかなさぁ」
「あ〜やだやだ。僕はここで休んでからじゃないと、動かないからね」
「そんなことしてると見つかっちまうよ」
「うるさい!」
 そして、五分は休んだろうか。
「さ、そろそろ行こうか」
「嫌だ、何か飲みたい。そうだ、水があったよね、ゴロウ、くれよ」
走ってくる途中水飲み場でゴロウが汲んだ水のことだ。
「ダメだよ、これは大事な水なんだ。いつ、飲めなくなるかわからないからな」
ゴロウが説明してもアランは聞かない。
「いいじゃん。くれよ」
「・・・・・・」
しょうがなくゴロウはアランに水をやった。
「あんまり飲みすぎるなよ。走ってると腹が痛くなるからな」
「わかってるって」
 アランが飲み終わり、立ち上がった。二人はまた走り出すのだった。
“しかし、何処なんだ出口は。このままじゃ見つかっちまう。まいったな”
気づけば隣を走っていたはずのアランがいない。振り向けば十メートル程後にアランがいた。
「どうした?」
「お腹が痛くて・・・・」
アランは辛そうに言った。
「コノヤロ・・・・」
ゴロウはアランに聞こえないように呟く。そしてアランに歩み寄り
「ほら、あそこに曲がり角があるだろ、三十メートル先に」
指をさしてゴロウは言う。
「あの角を曲がれば出口だよ」
「本当?」
「ああ・・・・」
嘘だった。だがこうも言わなければアランは動かないと思ったからだ。ゴロウ本人も曲がり角の先に何があるのか分からなかった。ゴロウも一心に出口があって欲しいと思った。
 その時
「いたぞっ、あそこだ!ガキ二人」
百メートル向こうから四、五人の兵士が走って来た。
“やばいぞ”
ゴロウはアランの手を取って走った。あの角を曲がる。
“出口、出口があってくれ”
 走るっ、曲がるっ、見た
行き止まりだ。何てことだ。

「待てや、ガキ共ォ!」
後からは兵士が来る。
“ここで捕まったら、アウターコロニー・・・・・・そんなのって”
 とりあえず二人は行き止まりの奥まで行った。窓があった。子供一人が通れるような大きさの窓があった。窓の向こうは外だ。
「アラン、窓から出よう」
そう言って、ゴロウが窓を開けた。窓の外は外だが、地面まで十五メートルはあった。
「・・・・・・・」
二人は息を呑んだ。内に兵士達がやってきた。
「もう逃げられんぞ、その窓の外は地面まで十五〜十六メートルはあるからな」
また別の兵士が言う。
「ククク、おとなしくしろよ」
 「飛ぼう」
ゴロウが小声で言う。
「えっ!」
「大丈夫だ下にはダンボールが積んでたからそれがクッションになるはず・・・・・」
「で、できないよ」
「捕まるぞ!」
「でも無理だよ・・・・」
「クソが・・・・」
 兵士達がジリジリ近づいてくる。逃げられるはずはなく、捕まる可能性は極めて高い。
「行けっ!」
「行けない!」
「行けってんだコノヤロォォォ!」
ゴロウがアランを外に放り投げた。
「!」
兵士達はそれを見て固まった。ゴロウはその兵士達を見て
「捕まるかバカ」
そして飛んだ。
 その場にいた全員が、まるで時が止まったかのように動かなかった。
 ドサッ
落ちた。そのことを全員が悟った。
「お、おいお前見てこいよ」
「え?俺?死体か・・・・」
その死体という言葉から兵士達はゴロウ達が死んでしまったものだと思っていることが分かる。
 「じゃ、じゃあ、俺見てくるわ」
男の一人が窓に歩み寄る。頭を窓から出して下を見た。いた。二人、倒れている。
「お、おい!倒れてるぞ。死んでいるかも知れん、外行くぞ!」
「お、おう!」
慌てて兵士達は行ってしまった。
 倒れている二人。動かない。だが次期に、
「うっ・・・・生きてるか?・・・アラン・・・」
「・・・・・何とか・・・・」
生きていた。二人は確かに生きていた。
「ふう・・・思っていたより、ダンボールがたくさん積んであって良かった。腕の一本は覚悟してたんだけどな・・・・。さて、そろそろ行くぞ、次期にまた兵士達がやって来るだろうからな」
「うん」
二人は立ち上がり走り出した。ここは外だ、と言ってもまだ基地の敷地内だ。ここからが本当の勝負だ。
 出口に向かって走ってみたが、やはり正当な出口には警備兵が数人立っている。周りは鉄条網に囲まれていて、越えていくのは無理だ。そして何やら街の方からは爆発音が聞こえる。気づけば建物の前に立っていた。
「ここは・・・・。とりあえず、身を隠すためこの中に入ろう」
中に入ってみたが、人はいないようだ。
「奥に行って少し休もう」
 ゴロウとアランはゆっくり音を立てずに奥へ進んだ。建物の中には大きな扉があり、その横に小さな、普通のドアがあった。
 ガチャ・・・・。ドアを開ける。すると、今まで人っ子一人いなかったのにそこにはたくさんの人とたくさんの戦闘機があった。
 二人は気づかれないようにユニットに隠れながら進んで行く。
「どうやらここは格納庫みたいだ。整備してるのか?」
「早く進んだ方がいいよ」
「ああ、そうだな」
 音を立てず階段を上る。上まで上り、高い所から下を見下ろした。人ごみの中に、バーゼル少尉を探してみたがいなかった。
 進んで行く内に半開きのドアがあった。中を覗くと誰もいなかった。
「よし、この中で休もうか」
二人は入って驚いた。目の前にあった。そう、『ガンダム』の頭部が目の前にあった。二人とも本や写真では見たことがあったが本物を見るのは初めてだった。
「凄ぇや・・・」
「あ、ああ、これがガンダム・・・。でも、なぜ戦闘機基地にあるんだ?」
二人は階段を駆け下り、足元からてっぺんまでガンダムを見上げた。ずっと見ていたかったが、そうもいかない。とりあえず身を隠そう。
 ガンダムの隣には車のようなものがあった。大きさも車くらいで天井がないオープンカーのような感じだ。それを車と思わなかったのはそれにはタイヤが付いていなかったからだ。二人はその車のようなものの中で休むことにした。
 隣の格納庫では整備が続けられていた。男の一人がゴロウの入って行ったドアを見て
「何だ?鍵が掛かってないぞ、ドアも開きっぱなしだし、全く」
ガチャ、ガチャ、カチッ
「これでよしっと・・・」
兵士はドアに鍵を掛けて行ってしまった。閉められたドアには文字盤が付いていた。
『関係者以外立ち入り禁止』
 一方、ゴロウ達は車のようなものの中にいた。中には二つ席があってちょうど座っていた。ゴロウの座っているほうの座席の前にはハンドルが付いていた。
「アラン、恐らくこれは乗り物だぜ、見ろハンドルが付いてる」
「でもタイヤがないよ。造りかけなのかな?」
「多分な・・・。それでこれからのことだが、夜を待とう。ここに来る途中幾つか出口があったが、何処にも警備兵がいて通れない。でも夜になればいなくなるか、最低警備が甘くなるだろ。それまで待とう。もう寝ろ力を蓄えるんだ。話しかけるなよ」
ゴロウは目をつぶった。
 「ねぇ・・・・」
「・・・・・」
「ねぇ、ゴロウ・・・・」
「・・・・・」
「ねぇってば!」
「うるせぇな!何だよ?」
「いや、誰か来たよ2人、近づいて来る」
「何・・・・・」
 男が二人こっちに来る。ゴロウとアランは息を潜める。
「大丈夫、別にこっちに来るって訳じゃあないようだ。音さえ立てなければ・・・・っておい!アラン!」
そう言ったのはアランが今にもくしゃみをしそうな顔をしていたからだ。
「おい、我慢するんだぞ・・・」
「・・・ふああ・・・」
アランはあくびをした。
「何だ、あくびか・・・・。脅かしやがって、全く」
ゴロウが安心したその時、アランの顔がまたあの顔になった。
「何だ、またあくびか・・・・早くしろよ」
「いっきしょい!」
“!”
 男達はこっちを見ている。ゴロウ達は体を屈めた。
「バカ、くしゃみなんかするなよ・・・・」
「ごめん・・・つい・・・」
 そしてとうとう男達は乗り物の中を覗き込んだ。
「何だ、このガキ共は?まさか、逃げ出したっていう・・・」
 もう駄目だ・・・・そう思ったその時。
「うぐぁ!」
「な、何するんだ・・・・うわっ!」
 「大丈夫かお前ら?」
ゴロウ達は目を開けた。そこにいたのは
「か、管理人ッッ!」
そこにいたのは、あの管理人だった。管理人は二人の男を倒していた。
「お前らよくここまで来れたな。元気だったかよ?」
「管理人、どうしてここに?」
「俺もガンダムが見たくてな・・・・。さ、そんなことより逃げるんだろ。このマシンに乗って逃げろ」
「でもタイヤが付いてないぜ」
「フッ、タイヤなんていらねぇよ。今エンジンを・・・・」
管理人は腕を伸ばしてエンジンを掛ける。
 ヒューン、ヒューンと珍しいエンジン音が響く。
「え・・・とアクセルがそこで・・・・」
説明の途中で兵士達がやって来た。
「やばい、もうハッチを開けるから発進しろ」
「待ってくれ管理人、最後に一つ聞かせてくれ。何でそこまで俺達にしてくれるんだ?」
「・・・だってお前らは何にもしちゃいねぇんだろ?それにな、管理人がやさしくなきゃ世の中お終いだろ?俺も最後に一つ言っておく、お前らなら、このジェットターボ八号を乗りこなせるだろう!」
「ジ、ジェットターボ八号・・・・」
「だせぇ・・・」
「うるせぇ、今俺が付けたんだ、いいだろ。オラ、ハッチ開けるぞ!準備いいか!?」
 ゴゴゴゴゴ・・・・・。目の前のハッチが開く。後ろからは兵士達がやって来る。
「死ぬなっ、生き延びろよっ!」
管理人が叫んだ。
「死ぬかよっ!じゃあな・・・」
ゴロウはペダルを踏んだ。
 ドビュンッッ、風のようにジェットターボ8号は飛び立った。

 ゴオオオオオッッ、ジェットターボ8号は凄いスピードだ。物凄いGが2人に掛かる。
「あばばばばんん、アダァァンンッッ・・・・」
「え!?あんだっでぇ・・・・」
「どわいじょぉぶがぁぁぁぁ!?」
「ズビィィドおおどじぇい!」
 ゴロウはペダルを踏む力を緩めた。
「ハァハァ・・・・スピードは落ちたな・・・・」
「ゴロウッ、スピードは落ちたけど、このジェットターボ八号も落ちるよっ!」
「な、何ぃ!?」
 ゴロウはまたペダルに力を込める。ドンッッ。
「ぐぐぐ・・・・こりゃあ・・確かに『ジェット』で『ターボ』だぜ・・・・・」
地上を見下ろすと炎が暴れ狂っている。人々は逃げ回っていた。
「ま、街が・・・・。どうなってやがる・・・」
「ち、ちょっとゴロウッ、前っ、前」
「何だよ・・・・おっ、おおおおっっっ」
ビルだ。ビルが目の前に建っている。もう避けることはできない。
「突っ込むぞ!!」
 ガシャドングシャ!ジェットターボ八号は窓からビルに入り、ビルのオフィスを突き抜けた。
「うおおおおおらぁぁぁぁ」
 バリンッガシャン・・・・ドンッッッ。
「よしっ、ビルを抜けたぞ!飛ばすぞコラァ!」
 一陣の風が吹き抜けていった。ジェットターボ八号が突き抜けていった。ビルは崩れていった。
 「そろそろ俺達の街の上だな・・・・」
「これ、どうやって止めるんだ!?」
「あっ!」
 その時、ジェットターボ八号に大きな衝撃が走った。
「ぐがっ・・・・何なんだ・・・・」
「あっちの戦闘機にミサイルをくらっ・・・・」
 ジェットターボ八号は物凄い勢いで落ちていった。
 ドッパァーンッッ
“落ちた。俺は生きてる。ここは何処だ。水の中
「ブハァッッ、ハァハァ、アランッアランはっ!」
「ダハッッ、ブハァハァ・・・・」
「おお!お前泳げるか!?」
「ああ、なんとか・・・・」
 二人は水から上がった。そして地面に転がった。
「僕達、生きてるんだよね・・・・・」
「ああ、生きてる・・・・」
 二人はしばらくの間、空を見上げた。
“こんなことがあっても、空はいつもと変わらないんだよな・・・・”
 「ここは何処だろう・・・・」
アランが回りを見回しながら言った。
「俺達はこの湖に落ちたのか・・・・。多分、水の中に落ちたことと、ジェットターボ八号が落ちる瞬間にピンポイントバリアを張ってくれたおかげで助かったんだな」
「ゴロウ、ここが何処かわかるかい?」
「えーと、湖ってことは・・・・そうだ。ここは保護公園だ。俺達の街とそんなに離れてはいないぞ」
「よし!じゃあ早く行こう!」
アランは走り出した。
「おいおいもう走らなくたっていいんだぜ」
「そうだった」
アランの顔はとても嬉しそうに笑っていた。
 “そうだ、もう走らなくていい。色々あったけど帰って来れたんだ”
「さぁて、家に帰ってメシでも食うかな・・・・」
 ゴロウとアランが歩いていると後からアランが何者かに押さえつけられた。
「!」
「何すんだよ!」
そう叫んだゴロウの別の男に捕まった。
「放せよ!」
 二人は二人の男に草原にある戦闘機の前に連れて行かれた。
 「よう」
「!」
「久しぶりだな。俺の名前はドヌイ、いや、マークと言った方がわかりがいいか・・・・?」
「マーク!」
「この二人を積み込め」
ドヌイ大尉は二人の男に命令した。
 ゴロウとアランは戦闘機の中に放り込まれた。ハッチは閉められ、ドヌイ大尉達は操縦室に乗り込んだ。
 戦闘機は草原を飛び立った。
 戦闘機の中は広い。戦闘機と言っても運用機なのだろう、その本来荷物が積み込まれる区画に二人は入れられた。
 「街の様子を見せてやる」
その声の後ゴロウ達を三百六十度視界モニターの映像が包んだ。まるで空を飛んでいるような気分になった。
 「や、やっと逃げられたと思ったのに・・・・」
アランが泣き出してしまった。
「気分はどうだ。乗り心地は最高だろう」
ホール内にドヌイ大尉の声が響く。
「マーク・・・・いや、ドヌイ、お前は何者だ!?連邦じゃねぇだろ」
「フフ・・・私達?そうだな・・・・『外側の人々』とでも言っておこうか・・・・」
「外側!?アウターか!?」
「・・・・それより、下を見てみろゴロウ君」
「何で俺の名前を知っている!?」
「いいから、見たらいい」
 地上では炎が全てを飲み込もうとしていた。家屋は燃え、人は燃え、地獄が広がっていた。
「お、お前がらがやったのか?」
「そうだ。ここだけじゃない、世界中で同志達が作戦を実行に移している。まだ始まったばかりだ、面白くなる・・・・」
「どうして!?どうしてこんなこと!」
「どうして?全ては我等が王、カサ・ブランカ様のお言葉だ。さぁ、お喋りは終わりだ」
 ゴロウは、ゴロウの心は爆発寸前だった。
“何てことしやがる。何てこと・・・・・そして俺は・・・・”
「がぁぁぁぁ!」
叫んだ。今までの全てがでたらめだったら。
 その時、足元に見える地上からこちらを見上げる三人組がいた。
「サブロウ!トリノ、ソフィア・・・」
生きていた。友よ。
“俺は絶対に死なねぇ、絶対帰ってくるぜ。そしてサブロウ、一言謝らせてくれよ。諦めるなんて、死ぬまでないから”
 ホールの中にアランの泣き声が響いていた。

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