BOOK_M.GIF - 768BYTES機動戦士ガンダム 〜NO WHERE MAN〜
第二章 戦火

 “イチロウ、ジロウ、シロウ、ゴロウ、みんなどこ行ったんだよ。おい、みんなー”
 「サブロウ、起きなさい」
はっとなって目覚めた。
「夢か・・・」
服を着て、パンをかじって
「行ってきます」
モゴモゴしながらいつもの道へ。いつもの場所でゴロウと落ち合うはず・・・いない。
「寝坊したのかな?」
夢を思い出して嫌な予感がしてきた。
 「もう間に合わねーぞ、先行くからなゴロウ」
一人で怒りながら走って学校に向かった。夢の内容はみんな俺を置いて遠い所へ行ってしまう。それだけなら良かった。だけど、誰かわからない。目を背けたから、俺と誰かは、血まみれだった。
 走る。遅刻しそうだ。
「ちくしょう、ゴロウのせいだからな」
俺も結構独り言が多いかな。
 ゴーーーーーーーンッッッッ!
“!”爆発音がした。しかもすごい音だ。何が起こった。振り向くと家が燃えている。走って戻った。
「母さん・・・・」
家は燃え続けている。俺は二人暮らしだった。
「そんな・・・・」
がくりと膝をついたその時、家の中から燃えている何かが飛び出した。人間だ。
「あぁ・・・あぁぁ・・・・・」
それは朝起こしてくれたり、今まで良くしてくれた母の姿だった。
「うわぁぁぁーーー!」 
俺は逃げた。すごく怖くなった。どうすればいい、これから 
「うわぁーーー」
喚きながら走る。サイレンが鳴る。
「市民は、学校に避難してください」
学校・・・・みんなの所へ。
 クラスは静まり返っていた。何なんだこの雰囲気は。みんないる、良かったみんな・・・・ゴロウがいない。
 みんなはテレビの前に集まっていた。食い入るようにテレビにかじり付いている。だけどそんなこと気にしている余裕はなかった。サブロウはつい十数分前の出来事を思い出していた。きっとこの記憶は何十年経っても消えることはない。
 テレビの中からは大きな爆発音と人の叫び声が絶え間なく続いている。
「テ、テロです。世界各地で息を潜めていたテロリスト達が蜂起したようです。この事について連邦・・・・」
 プツン・・・・・・・・・
 先生がリポーターが話し終わる前に電源を切った。
「みんな落ち着いて、落ち着いて・・・・ね?」
そう言う先生も焦っている。サブロウはクラスを見回すと、いつも明るいトリノやソフィアとかの連中も青ざめていた。窓から遠くの街を見ると、真紅の花が咲いたかの様に炎が黒い煙を上げていた。 
「みんな大丈夫だから落ち着いてください。この学校がこの地区の避難所ですから、一度家に帰って、用意をして家族の人と一緒にまた来てください。それじゃまた後でね」
先生も家のことが心配らしく急いで職員室に行ってしまった。 
 “帰る家・・・・なくなったんだ・・・・・これからどうする・・・・”
 とりあえずトリノとソフィアが帰るのに着いて行くことにした。
「しかし、驚いたなぁ、戦争なんて」
トリノは人事のように言ったがサブロウはとても人事には思えない。
 トリノ・トロントはクラスメイトだ。メガネを掛けていて頭もいい。トリノの家は学校とサブロウの家のちょうど中間にあった。
 「ホント、どうなるのかしら、私たち」
「なるようになるさ」
不安そうなソフィアにトリノはそう言った。しかしサブロウは“『なるようになる』って、みんな死んでしまうのだろうか?”先ほど母が死んだサブロウにはそう思えた。
 ソフィア・セーラムは青髪の女の子。サブロウとは小学校の時からの友人で、中学ではこの二人しか互いにとって同じ小学校出身だったから幼馴染みたいなものだ。彼女は少しおせっかいなところもあるが、やさしく気持ちのいい女だった。
 サブロウはソフィアの顔を見た。不安そうな顔をしていたがサブロウにはどうすることもできなかった。気休めの言葉をかけてもどうにもならないことはわかっていた。 
 トリノの家はこの辺りだ。三人は足を止めた。
「家が・・・ない」
トリノが言った。いや、正確には家はあった。しかし今はもう焼け焦げたただのクズになっている。
「か、母さんは・・・」 
そう言うトリノの目が少し潤んでいるように見えた。
「大丈夫よ、どこかに逃げているわよ」
「・・・ああ・・・」
トリノは返事をしたけど話は聞いていないようだった。
 三人はしばらくの間沈黙に包まれた。
 その時だった。 ズゴーンッッッ 遠く、と言っても八キロメートル先ぐらいに爆弾が落ちた。空を見たトリノが叫んだ。
「おい、ありゃ戦闘機じゃねーか。でも見たことない型だな、どこのものだろうか」
「どうだっていいでしょ、そんなこと」
 トリノは戦闘機のことやらにやたらと詳しい。サブロウは飛んで行く戦闘機をじっと見据えている。
“あいつが・・・街を・・・・”
その目は極めて鋭かった。
 次の瞬間、また爆弾が落ちた。
ズドォォォンッッッ!
そして三人の後ろから車がやって来た。
キキィーッ
運転席の窓が開き中の男が叫んだ。
「何やってんの、早く乗れ!死にたいのかよっ」
男は車を降りて三人を車の中に放り込んだ。よく見ると男は連邦軍の制服を着ている。
「俺はオギュー・ワギュー。この街はもう火の海だ。とりあえず、車、出すぞ」
 サブロウは遠くになっていく街を見ながら今日の朝見た夢を思い出していた。

 その頃、焼け焦げた道をイチロウは走っていた。息を切らしながら、汗をかきながらイチロウは走っていた。目に見える風景も気にせずにただ家を目指して。
 いつもの帰り道のように角を右に曲がった。いつもならそこにあるはずの家が・・・・・・ある。
 イチロウは急いで家の中に入った。家の中には恐怖で顔が引きつった母さんが立っていた。
「イチロウ、生きていたのね、良かった・・・・顔色が悪いわよ、大丈夫?」
そう言った母の顔色の方がよっぽど悪い。
「まあいいわ。早く逃げるわよ」
そう言った母の後ろに黙ってついて行った。
 十分、二十分と時は過ぎ去る・・・・。ただ母の後ろについて来ていたのでここがどこなのか全くわからない・・・・。ただここが山の中だということ以外では。 
 道のない道をひたすら歩いていた母の足が止まった。
「何止まってんだよ」
イチロウは思わず言ってしまった。だが、母はそんなことは聞こえていないかのように無言で大きな木の根元に歩いて行った。
 母は木の根もとの何かを探しているような仕草をしている。
「はぁ?何してんのぉ?」
言ってるそばから1から9の数字が書かれたキーパネルが現れた。
「母さん、そのボタンは・・・・?」
「私たちレジスタンスの緊急避難所へ行く為のパスワードみたいなものよ」
そう言った母さんはすごいスピードでボタンを打っていた。
 1157329。これがパスワードなのか
ゴゴゴゴゴゴ・・・・・・
「うわ、何だ!?地震か?」
イチロウの立っている地面が割れた。割れた地面からは階段が現れた。
「さあ、行くわよ」
「う、うん・・・・」
イチロウは走って階段に向かった。
 階段の奥には強固そうな扉があった。
 「ん・・・なんだぁ?この扉、開かないぞ?」
イチロウが取っ手をガチャガチャいわせながら言った。
「そんなんじゃ開かないわよ」
母はそう言うと。
「我らに希望を!」
母がそう言うとガチャという音と共に扉の鍵が開いた。
 イチロウは扉を開いた。その扉の奥には、三十人ほどの人が避難している。全員レジスタンスだろう。
 イチロウが人々を見渡していると、人ごみの中に存在感バツグンの外人を見つけた。
 イチロウはその外人に釘付けになった。その外人の服のセンスが0だったからである。ジーンズはボロボロで、膝の所に茶色の何かが付いている・・・・。しかも上半身は裸である。
「ぷっ」
外人のあまりのセンスのなさにイチロウは笑ってしまった。というよりあれは変態じゃないか・・・・・?考えただけでイチロウは笑ってしまった。
 イチロウは笑い終えた。その時イチロウは何となく肩の荷が下りた気がした。さっきまで燃えていた街を走っていたのが、ずっと昔のように思えた。ふとイチロウは気づいた。
「サブロウたち、大丈夫かなぁ・・・・」 
 その時イチロウは背後に気配を感じた。
「ワッ!」
イチロウが後ろを向くとさっきの外人がいた。
「オ〜〜〜〜〜〜!!マイネームイズ・・・・・アンガス・ランカスター!」
イチロウは何が起こってるのか良くわからなかった。
「ユーの名前は〜〜?」
「え・・・イチロウ・・・」
「オ〜〜〜〜!ベリーグッドね〜〜〜」
何がベリーグッドなんだ?イチロウが考えている間にアンガスは喋りだした。
「ユーはさっき私を見てたでしょ?だから私と友達になりたいのかと思って」
「別に・・・そういう訳じゃ・・・・」
「オ〜〜〜〜〜〜!恥ずかしがらなくてもオーケイよ!」
イチロウはアンガスと喋る度にムカついていた。
「悪いけど今忙しいからバイバイ」
よし!!何とか逃げられた!!その時イチロウは後にアンガスの顔を嫌になるほど見るなんて思いもしなかった・・・・。
「ふー、もういいかな?」
イチロウはアンガスを振り切ったと思ったら壁に腰を下ろした。
「レジスタンスにも変態がいるのか・・・・・しかしあの外人一体何な・・・・」
 話し声がする・・・・。誰だ?イチロウは声のする方へ向かった。声は向こうの角の所から聞こえる。
 そこには男が三人立っていた。
「テロリスト達の正体はわかったか?」
「いえ、依然正体はわかっていません」
そう言った男の顔は険しかった。
「しかし、我々にとっては好都合かも知れんな」
「ええ、今なら連邦軍もテロリストの方に気を採られていますから、チャンスですね」
 男が喋っている途中にまた男が一人来た。
「お、ジャバト、爆発に巻き込まれたと聞いたが」
「ああ、痛かったけど大丈夫だ」
爆発に巻き込まれて大丈夫な訳ないじゃないかとイチロウは思った。
「しかし、連邦もついてねーなぁ・・・テロリストの攻撃とはな」
「ついでにレジスタンスからの攻撃と来れば連邦もまいるでしょうね」
「テロリストの攻撃?本当に?」
「ええ、地球本部から連絡があって」
それを聞いたジャバトの顔はにやついていた。
「まじかよ〜〜〜!俺のパイロットとしてのセンスを連邦のクソ共に見せつけるチャンスがやっと来たぜ」
 「オ〜〜〜〜〜、ジャバトさ〜〜ん、あなたにセンスなんてあったんですか?」
その声はイチロウの後ろから聞こえた。
「アッ・・・・アンガス・・・・・」
「ユーが走って逃げるから追いかけて来たんですよ」
何ていう迷惑だろう。
「おいアンガス、お前ケンカ売ってんのか?ああ?」
「ミーはケンカを売る商売なんてしてませんけど?」
ジャバトの顔は真赤だ。
 「アンガス、そこのガキは誰だ?」
かなりゴツイおっさんが言った。
「君もしかして話・・・・聞いてた?」
イチロウはかなり焦った。
「え?あぁ・・・・は・・・へぇ・・・・はい・・・」
「この事はまだ秘密にしといてくれる?」
「はい」
イチロウは力強く言った。
「うむ・・・・・いい目をしているな・・・・。君、名前は?」
「イチロウ・・・・イチロウ・イシイです」
「イチロウ君、君なら秘密にしてくれるだろう・・・。この事は我々から時機にみんなに話す・・・まずテロリストの攻撃が止んでくれないとな・・・・」
 そこにジャバトが口を挟んだ。
「ふん、邪魔なテロリストは全員倒してやるよ」
「ハハハッ、テロリストを倒せるんですか?ジャバト、あなたが?ハハハッ、テロリストを倒せるのはこのミーぐらいですよ」
「えっ?アンガスってモビルスーツ乗りなの?」
アンガスはにやついている・・・・上半身裸で・・・。
「そうで〜〜す。しかも地球バクソウ部隊の第二部隊の隊長なんで〜〜す」
「へぇ〜〜〜」
アンガスが隊長クラスの乗り手とは知らんかった。
「因みに俺は地球トップガンズ部隊の第十五部隊の隊員だぜ」
「へぇ〜〜」
 ここでゴツイおっさんが話に入ってきた。
「さぁ、話はこれまでだ。ジャバトとアンガスは例のアレの整備を手伝ってくれ」
「オーケイ」
 アンガスは何も言わず去っていった。ついでにジャバトも・・・最初に話していた男達もいなくなっていた。しかし例のアレとは一体何なんだろう・・・モビルスーツ?モビルアーマー?例のアレが何かなんてわからないけど、今はそんなこと考えてる時じゃない・・・。あの話が本当なら俺も戦いに駆り出されるのかな・・・。この日イチロウの頭はいっぱいだった。
 「ふぁぁ・・・」
イチロウは大きなあくびをした。
「地下だから何時かわからねえや・・・・。もう夜か?」
「ええ九時ちょうど」
母が目の前で言った。
「九時?まだ寝る時間じゃないな」
「何言ってんの。もう疲れたはずよ。それに明日は朝早いからもう寝なさい。あなたの部屋に案内するから早く行くわよ」
 その後母の後ろに付いて行ってその部屋に着いた。周りにもたくさん部屋があった。
「部屋は共同だからね。それと私の部屋は向こうの角の突き当たりだから」
「うん、わかった・・・・。あ、そう言えば母さんさっきまで何してたの?」
「え?トイレよ、トイレ!」
「ふ〜〜ん・・・・」
「さ、もう寝なさい」
そう言うと母は頬にキスをして行ってしまった。
 イチロウは部屋に入った。そこには六人分のベッドがあった。そして四人の男共がいた。
「やあ、君もここの部屋なの?」
話し掛けて来た男は・・・・・デカイ!とにかくデカイ。二メートルくらいあるような黒人だ。
「ええ」
イチロウはそう言うと一番近いベッドに倒れ込んだ。
イチロウはまた部屋を見渡した・・・。黒人の男は名乗り損ねた顔で立っている。その近くで中年のおっさんが鼻歌で踊っている。部屋の隅に男が一人・・・何やらぶつぶつ言っている。もう二人はもうベッドで寝ている。
 「もう寝よ・・・」 
イチロウが目を閉じようとした時一人の男が入ってきた。しかもマフィア顔だ。腕にはタトゥーが彫ってある。
「やあ、こんにちは。あなたもここの部屋?僕の名前は・・・・」
「うっせえぞコラ」
まさにマフィアだ。黒人の男も青ざめて佇んでいる。
 そのマフィアはイチロウの寝る2段ベッドの上の方に上っていった。
「変態の次はマフィアかよ。レジスタンスはどうなってんだ?」
そんな疑問を考えている内にイチロウは眠っていた。

 イチロウ・・・イチロウ・・・・誰か自分を呼んでいる・・・。
「オ〜〜〜〜イチロウさ〜〜ん。起きなさいよ〜〜」
「ア、アンガス〜〜〜!」
 イチロウは目を覚ました。
「ふぅー、まさに悪夢だ」
イチロウは汗だくだった。その時イチロウはフと気づいた。ドアの所に上半身裸の男が立っているのに。
「オ〜〜〜イチロウさ〜〜ん。おはようございま〜す」
「ア、アンガス〜〜!」
「みんなもう起きて朝食を食べてま〜〜す。だから早く起きてくださ〜〜い」
「え、わかったよ」
 泣く泣くイチロウはアンガスの後ろに付いて行って食堂らしき所に着いた。
「朝食はあそこのおばちゃんに言えばくれますから。それじゃさよな〜〜ら」
アンガスはそう言って去って行った。
「アンガス・・・朝も上半身裸でよく風邪ひかないなぁ」
アンガスについて考えている内に朝食は食べ終わっていた。
 「そう言えば母さんはどこ行ったんだ?」
その時食堂中にアナウンスが流れた。
「朝食を食べ終わった者は中央エントランスに集まってくれ。食べ終わっていない者は十分以内に集まってくれ。以上」
「?中央エントランスに集まってくれって、何かすんのか?」
「ふふ、行けばわかるわよ」
「あ、母さん」
「さぁ、早く行きなさい」
「う、うん」
イチロウは中央エントランスに向かって歩いて行った。
 「そういや母さん朝は何してたんだろ?」
その時向かいの廊下からアンガス、ジャバト、ゴツイおっさんに男が二人。それに母さん!?なぜに?そんな事を深く考える余裕もなくゴツイおっさんが喋り始めた。
「みんな揃ってるな。それでは早速。えー我々はこれからレジスタンス本部のあるアメリカに行く。危険を伴うが連邦を倒すには今がチャンスだ」
レジスタンスのみんながざわめき始めた。
「あー、みんな静かにしてくれ。我々が連邦を倒すには今しかないんだ。だからみんなも協力してくれ」
「でも戦艦がないのにどうやってアメリカに?」
どこからか声がした。
「ふふ、戦艦がないのにだって?君達はもう戦艦に乗ってるじゃないか」
「え?まさか・・・」
イチロウも感づいた。
「そう、ここは基地じゃない。レジスタンスの戦艦バイタリティーだ!!」
ここが基地ではなく戦艦だという事に集まったレジスタンスのみんなも驚きを隠せなかった。
「我々には時間がない。急いでアメリカに行くことになるが・・・降りる者はいないか?」
誰も降りる者はいなかった。みんなも今回の戦いがレジスタンスにとって大切な戦いだということがわかっているようだ。
「誰もいないな・・・・それでは早速出発だ!」
 男が叫んだ後エントランス中にエンジン音のような地響きが鳴った。
「バイタリティー浮上しろ」
男が叫んだ。その時イチロウはフと気づいた。
「ここ地面の中じゃないんだ。シェルターの中だよ。シェルターの天井部を開いてバイタリティーを浮上させるんだ」
そう言ったのはジャバトだった。
「アメリカに着くまで戦いは避けられねぇからな、やっぱし俺の出番だな」
ジャバトは少しウザかった。
 バイタリティーが動いているのがイチロウにはわかった。
「もう地上には上がったかな?それにしても例のアレとはバイタリティーのことなのかな。て言うか母さんって一体・・・・」
イチロウの考え事がまた増えた。
 ゴゴゴ・・・・。地響きのようなエンジン音・・・・バイタリティーは進んでいる・・・アメリカに向かって

 

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